2007-03-23

夢を見た

夢で、別れた彼女を見た。

どこか見知らぬ土地の建物の中。木造和風の旅館だったかもしれない。

入り口をくぐった時だったか、カウンターの前に立っている彼女と目が合った。

あのときの強い気持ちが蘇り、僕らはなんの疑問もなく駆け寄り、強く抱き合った。

久しぶりに蘇った恋の高揚感は、目が覚めてからもしばらく続いた。

彼女は決して綺麗な人ではなかったけど、表情の豊かな目がとても魅力的だった。

僕より年上だったけど、小柄で愛らしい外見と性格だったせいか、僕らは対等に付き合うことができた。

彼女には夫がいた。いわゆる不倫だった。

会えないことも多かったし、制限もあった。人の目も気になった。

でも、だからこそ、会える一回一回が貴重だったし、その機会を最大限に楽しもうと二人で努力した分、とても充実した日々を過ごすことができた。

会えない間はネット携帯で連絡を取り合っていた。ただそういう方法では、お互いの気持ちがもつれることも多かった。

いくら喧嘩していても、会えば仲直りできるのは分かっていたから、そんなときはなるべく会うようにした。

会ってしまえば何事も無かったかのように楽しく過ごし、愛し合うことができた。

でも、僕が体調を崩して入院することになる間際、気が立っていたせいもあって、彼女に辛く当たったことがあった。

それからしばらくの間、僕らは会わなくなった。

退院する前日に彼女はお見舞いに来てくれたけど、よそよそしい会話で終始した。

二人の関係が元に戻ることは無かった。

しばらくして、僕は別な女の子と付き合い始めた。

そのことを彼女電話で告げると、次の日、彼女は僕の住んでるアパートにやってきた。

ソファに座り、彼女は泣いた。僕に強く抱きつきながら別れないでくれと何度も言った。

僕は彼女を突き放した。彼女言葉を頑なに聞き入れなかった。付き合い始めた新しい子を気に入っていたし、これまでのことで僕の気持ちの中には、彼女に対して石のように固いわだかまりのようなものがあった。

彼女は泣き腫らし続けたが、しばらくして諦めた。そして身を引いた。ただ最後に、一緒にディズニーシーに行って欲しいと言った。

クリスマスが近い週末、彼女と2人でディズニーシーに行った。最後のデートだった。

クリスマスプレゼントに、彼女が気に入りそうな、小さな石のピアスを渡した。

彼女は驚いて喜んだけど、受け取るのは拒んだ。そして微笑みながら涙がこぼれた。

空は晴れ渡っていたが、とても寒い冬の日だった。2人で寒風に吹かれながら、大きな船のアトラクションの脇にあるベンチに腰掛けていた。

やがて夜になり、花火があがった。

笑顔を少し取り戻した彼女は、花火を見上げた。僕も見上げた。

冬の夜空に花火が美しく散っていった。色とりどりの花火が次々と上がっては、次々と散った。

ふと彼女を見ると、彼女はまた泣いていた。泣きながら花火を見上げていて、「きれい」と言った。

最後に彼女は、やっぱりそのピアスが欲しいと言って、受け取った。

その場で付けて、僕に見せた。「ずっと大事にするね」と言った。

それが彼女と会った最後の日だった。

あれから何人かの女の子と付き合って、去年、僕は結婚した。

穏やかな生活の中で幸せを感じられるようになった。

でも、今でも彼女をふと思い出すことがある。一度思い出すと、何度も何度も思い出す。いくつもの場面の、いくつもの表情が次々と思い出されてくることを、自分では止められなくなる。

彼女と会うことはもう無いだろうけど、だからこそ僕の思い出の中で彼女は、輪郭がぼやけて、細部が薄れ、美化されていき、綺麗に磨かれた丸い小石のように愛おしい存在になっていく。

それが僕の心を揺さぶり続ける。

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