「私は森に選ばれたんだ。醜かったから、ほとんど恋を知らなかったから。頻繁に恋をする生き物は死に易い。植物でも、動物でも、そうだろう?」
「そうして新しい森もすっかり一人前になって、終いにこういう体を作った。君が愛してくれるだけの美しさ。私もやっと恋ができる。生き物として死ねるんだ。」
むかしむかしあるところに、醜い女の子がおりました。それはそれは醜かったので、誰も彼女を好きにならず、誰も彼女を娶りませんでした。けれども彼女はとても優しい心の持ち主でしたから、愛されなくても人には親切にし、人を恨んでもそんな自分を恥ずかしく思って悔やみました。大人になってからは森の奥に住んで、なるべく人と関わらないように生きました。当たり前に村で暮らして行くのには、自分の寂しさと人の暖かさに疲れ切ってしまったからです。そのうち彼女は魔女になりました。優しく閉ざされた心と醜い体、森の空気が彼女を魔女にしたのです。魔女になった彼女の魔法を頼って、彼女のもとを訪ねる人もしばしばいました。もとより優しい彼女ですから、できるだけのことをしたあとで、お礼を言われる前に家を追い出しました。村の人々はみんな、彼女を大切に思っていました。
長い年月が過ぎて、彼女は森に呼ばれました。森を広げる手助けをしてほしい、そう森は彼女に頼みました。彼女の平坦な心は、その魔法に充分でした。魔女にもできる者はほとんどいない、難しい魔法です。一年間松の木の下に横たわり、寝ることも、起きることも、食べることも、食べられることも、体のことはすっかり忘れて、彼女は一個の松の種になりました。そうして、新しい土地に飛んで行ったのです。