■私はラスクが好きだったのに
そのお店のラスクはとても美味しく、私はしばしば買って食べていた。あまり流行っていないお店で、ゆえに、ラスクの材料はいくらでもあるようだった。私はそのラスクのおいしさを伝えるべく、まわりのひとに折に触れて食べさせ、宣伝していた。
ほんの小さなブームは、そのお店の本業であるバゲットのおいしさを広めるに充分な力を持っていた。バゲットは焼けるそばから売れて行き、行列も珍しくなくなった。
そのお店は、ラスクを作らなくなった。
私は、そのお店に行くことはなくなった。好きなお店が流行るのは、嬉しかったのだけど。
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