こないだ、街を歩いていたら
「この詐欺師!」と怒鳴られた。
おかしな話だ。
相手のことも知らない。
だが少しだけ思索してみた。
もしかしたら、
この人は僕の風貌だけ見て詐欺師だと判断したのかもしれない。
だとしたら納得がいく。
セカンドバッグを小脇に抱えてチラシの束を持っていたのだから。
それなら仕方ない。
彼に対する恨みは忘れよう。
こちらにも非があった。
だが彼は、
僕の目を見て「この詐欺師!」と言った。
つまり、僕の風貌など見えていなかったということだ。
僕の目しか見ていなかった。
だとしたら、彼は僕の目というか人相だけで判断したということだ。
これには流石に腹が立った。
というのも、僕は昔から人相だけで悪い印象を持たれることが多いからだ。
ともかく僕は彼を蹴ると、いちもくさんに逃げた。
彼は追いかけてきたが、知ったことか。
僕は足が速いんだ。とにかく逃げた。
最終的にはタクシーに乗って逃げた。
これなら追ってこれまい。
しかしタクシー代がかかってしまった。
僕は財布に2000円しか持ってなかったので、
そんなにタクシーに乗っていられなかった。
途中で降りて、また走って逃げる。
さすがに相手の姿は、もう見えなくなったが、それでも念の為に逃げる。
ここまで来れば安心だと思い、僕は山頂で魔法瓶の水を飲んだ。
ゴクゴク。なんて美味しいんだろう。
しかし彼は一体どうなっただろう。
僕に蹴られて追いかけて、結局つかまえることが出来なかったのだから。
さぞかし悔しい思いをしただろう。
だが、そんなのは知ったことではない。
しかし流石に罪悪感を覚えたので、
せめて彼の言うとおり詐欺師になってみようと思った。
そうすることで、彼は自分が間違っていなかったと思うことができるからだ。
僕は自分の慈悲深さに感嘆した。
さらにそれを道行く人に売って、そのお金で複数の缶ジュースを買い、
ペットボトルにし、売り、買い、薄め、売り、買い、薄め、売った。
そんなことを20回ほど繰り返した頃だろうか。
飽きた。
最終的に12万円ほど儲かったが飽きた。
やはり金銭というのはモチベーションたりえない。
そう悟った僕は、彼が僕のことを詐欺師だと言ったのは、
やはり間違っているなと思った。
とにかく、しばらく経ってから罪悪感が沸いてきたので、
その金を全部ドブに捨てた。これでよかったのだ。