昔昔あるところに、アリスとテレスという、それはそれは可愛らしい姉弟がいました。
アリスには、お父さんとお母さんには言えない秘密がありました。それは、隣の森に住むウサギさんとの間に毎晩訪れる楽しい時間でした。
テレスは、夜になるとアリスがこっそりベッドを抜け出してどこかに行くのを知っていましたが、アリスのために黙っていました。
「ねえ、テレス。森の向こうには大きな湖があるのよ。その岸辺には、たくさん黄色い花が咲いているの」
テレスは訊ねました。
「アリスはその湖に行ったことがあるの?」
アリスは興奮したように頬を赤くして、しゃべりだしました。
「そりゃあ、あるわ! あんなに素晴らしいところは他にはないのよ! 黄色いお花畑の真ん中には小屋があるの。その小屋には小さなベッドがあってね。私たちがいつも寝ているような木の硬いベッドじゃないのよ。ふかふかでとても気持ちがいいの! そのベッドで、とんだりはねたり…。私とウサギさんは、朝まで遊ぶのよ。それはそれは、夢のような時間なの」
テレスはウサギさんとの遊びには興味が持てませんでしたが、そのベッドでは寝てみたいと思いました。
「僕もその小屋を見てみたいな。」
「いいわよ。今日の夜、一緒に行きましょう。」
そうして、二人はその夜、お父さんとお母さんが気付かないうちにベッドを抜け出して、森の方へと向かいました。
「ねえ、テレス。もしかして、私が毎晩ベッドを抜け出して森へ行くの、気付いてた?」
「うん。」
「そう。ゴメンね。もっと早く誘えばよかったわね。ほら、あのウサギさんの穴を抜けた先に湖があるのよ。」
二人は、子供がやっと通れるくらいの狭い穴を抜けて、岸辺に黄色い花がたくさん咲いている湖に着きました。小屋の前にはウサギさんが立っていて、アリスの到着を待っていました。
それは、お父さんと同じくらい大きなウサギさんでした。赤い目と、白い前歯が2本。じっとこちらを見ています。テレスは少し恐くなりました。
ウサギさんは、テレスから目をそらさずに、アリスに尋ねました。
「ごめんなさい、ウサギさん。この場所のことを行ったら、テレスも来たいと言ったのよ。」
「ごめんなさい、ウサギさん。でも、きっとテレスも一緒の方がもっと楽しいと思うの。」
ウサギさんはしばらく黙っていましたが、右手でそのひげを一本撫でてから、やさしい口調でこう言いました。