1匹のきつねが、ある高級葡萄畑を見つけました。
その畑には、大粒でつやつやした、いかにも高級そうな葡萄がたくさん実っていました。
あまりに美味しそうだったので、空腹だったきつねは、立ち入り禁止の柵をくぐり抜けて畑にこっそり忍び込みました。しかし、実がなっているのははるか上方で、どれだけ頑張って跳んでも全く届く気配がありません。
きつねはそう自分に言い聞かせて、諦めて畑を出ました。
しばらく歩くと、また別の葡萄畑がありました。
近寄ってみると、さきほどの畑ほど高級ではないものの、それでも十分熟して美味しそうな葡萄がたくさん実っていました。
しかも、それほど背丈の高い木ではないため、跳べば簡単に届きそうです。
「いらっしゃいませ、どうぞお入り下さい、入場料は1000ペリカです」
と係員が声をかけてきました。
きつねが自分の財布を確認すると、ちょうど1000ペリカ持っていました。
しかし、さきほどの高級葡萄を見てしまったあとでは、どうもこの畑は見劣りします。平凡な葡萄のために全財産をはたく気にはどうしてもなれず、中に入るのはやめました。
次第に空腹感は我慢できないほど強くなり、大変イライラしながら歩いていました。すると、声をかけてくる行商人がいました。
「お客さん、葡萄いらんかね?」
見てみると、かごの中には傷がついたり虫食いの跡があったりする葡萄が入ってました。
「見た目は悪いけど、味は美味しいよ。傷ものだから300ペリカにまけておくよ」
きつねは、「俺をバカにするな」と行商人につばを吐きかけ、その場を去りました。
きつねの空腹感は、もはや限界に達していました。
このままでは、もはや長距離を歩くこともできず、死んでしまいそうです。
すると目の前に、さきほど通り過ぎた1000ペリカの葡萄畑が現れました。
空腹感も手伝って、最初の高級葡萄ど比べても見劣りしないほど美味しそうに見えました。
ところが、なんということでしょう。
あまりにも空腹すぎて身体に力が入らず、跳ぶことができません。
元気な時だったら間違いなく美味しい葡萄にありつけたはずなのに、手を伸ばしてももう少しのところで届かないのです。
それでも、力をふりしぼって跳ぼうと何度も試みましたが、体力を消耗するばかり。
やがて、手を伸ばすことすらできなくなりました。
薄れゆく意識のなかで、きつねは思いました。
ああ、やっぱりこれもすっぱい葡萄だったのだ、と。