2009-08-30

おっぱいでまわるブラック会社

今春新卒で就職した高校時代の友人Nは、

毎週末ぼくに電話を掛けてきては愚痴をいう。

内容も毎回似たり寄ったりで、如何に会社における

自分達の立場が使い捨てソルジャーか、上司が糞か、

給料が安いか、将来が不安か、彼女ができないか、何か楽しいことがないか、

女の子を紹介しろ……他まぁよくある愚痴なわけだけれど、

毎週毎週聞かされてはぼくの返答もおざなりになる。

以下は先週金曜日の話

「本当に上司むかつくんだよ、やめてやるからマジで。

俺ら同期で結託して一気にブッチするかまえよ」

「マジで」

「マジよ」

「いつやめんの」

「今月中にな」

「先月も言ってたけど」

「今日さ、同期の畑山すげぇ怒鳴られて机蹴られてんの、まじこえぇ、

契約の成績悪かっただけでだぜ。朝から終電近くまでこき使われてさ、

俺なんのために生きてんだろ、つかなんか楽しいことないの?」

「無い無い」

「なんも楽しいこと無いんだよ、うちに居ても将来性ないし、みんな1年くらいでやめてくしさ」

「やめれば」

「だからやめるっていってるだろ」

「やめてどうするん」

「実家帰りたくねーけど、金ないしなぁ」

「貯金は?」

「ナイナイ、仕事のストレス半端無いからしょっちゅう飲みいったりで、毎月1円も残らねーよ」

「自分でやめれない状況つくってるぞ」

「金でも使わないとやってけねぇよ彼女もいないし」

「彼女まだ出来てないのか」

「そうだよ、おまえだけだよ童貞仲間でいてくれるのは」

「安心してよ」

「はぁーつまんねぇ」

「つまんないもんやよ」

「交尾してぇ」

この様に毎回同じ話をして終わるわけだけれど、

ぼくの冷たい反応に不服らしく、先週はここで終わらなかった。

「……最近おまえ冷たいよね、俺に対する反応っていうか」

「だって毎回同じ内容で愚痴られても」

「だってうちの会社マジやべえもん」

「愚痴くらい暇だから聞くけどね、ベッドに寝ころんでネットしながら」

「冷たいな」

「ていうか、どうしてほしいの、聞いてほしいだけならこんな感じでいいんだろうけど」

「どうすりゃいいんだろ、俺」

「じゃあ聞くけど、なんでやめれないの?会社の人怖いとか?」

「ーーいや、乳が」

「ん?」

「俺の会社、ちょっとやんちゃっていうか、ノリがアレで社内恋愛も多くてさ」

「へぇ」

「使い捨て社員もいっぱいいるし、入れ替わり激しいしで飲み会が楽しいんだよね、合コンみたいで。そんで、女とか酔ったらエロいじゃん」

「そうなの?」

「エロいエロい、男より女のがエロいよ」

「なにをしってるの童貞のくせに」

「うん、もうさ乳とか揉ましてくれるヤツがいるのよ酔うと」

「すげぇ……」

「だろ、いいだろ」

「いいなぁ!」

「毎回揉んでるんだけど、おまえ揉んだことある?」

「夢で2回くらい」

「俺そいつのこと好きなっちゃったんだよね」

「まぁおっぱい揉ませてもらったら童貞なら好きになるよね」

「そんなんじゃねぇけど」

「え?おっぱい揉ませてもらっても好きにならないの?」

「……」

「うん」

「まぁ、そいつうちに呼んだり一緒に遊んだりしたりで、好きになったの!段階を経てな!」

「揉んだ時だろ」

「顔はまぁふつうなんだけど」

「揉んだからだろ」

「で、こないだ告白したんよ、人生で初だぜ付き合ってくださいって言ったの」

「おお」

「でも、今は彼氏居るし、返事はちょっとまってって」

「いるのかよ」

「いるのは知ってたんだけど」

「知ってたのかよ……ていうかちょっと」

「うん?」

「彼氏いるのにおっぱい揉ませるとか、まぁある意味天使だけど、おまえ付き合えたとしても、

不特定多数に揉まれるんじゃ、いいの?不特定多数おっぱいだよ?」

「俺が彼氏なったらやめさせるし」

「なんだと自分は揉んでたくせに勝手な奴」

「それはまぁいいとして、告白したわけよ」

「彼氏いるのにか」

「なんか別れるとか飽きたとかチラつかせてたからさぁ」

「うん」

「俺と一緒にいると楽しいって言ってたし」

「うん」

「そういわれると好きになってしまうやん」

「揉んだしね」

「……だから彼氏と別れて俺と……みたいな」

「勇気あるな」

「俺告白したの生まれて初めて」

「がんばったな」

「で、今日返事きたよ」

「おお」

「だめだった」

「そうか」

「それはまぁいいんだよ」

「いいんだ」

「そんなことより、あいつ彼氏と別れて、上司のMと付き合ってるんだって」

「へぇ」

「上司のMってすげえあれだぜ、他の女子社員ヤリ捨てしたりして有名なんだよ」

「そうなの」

「こないだバーベキューあったの会社で、そこでなんか女の子が捨てられて泣いてたんだけど」

「まじかよ」

「その横で他の男社員に、また女の子泣かしちゃったwとかいってるんだぜ」

「すげぇ」

「そんな奴のどこがいいんだろなまじで」

「顔じゃないの」

「やっぱ積極性がないとだめなのかなぁ」

「てかすげぇ会社やな」

「しかも俺をフったその女が俺にMさんの女遊びについて相談してくるんだよ」

「残酷やな」

「なに考えてるんだろ、枕濡らすわ」

「でも、いいタイミングじゃないの?未練もないし退職しちゃえよ」

「そうだよ、会社に居づらいしだから今回は、まじでやめるつもりだよ」

今回ばかりは本当にやめるのではないか。だからといって何もできないけれど

とりあえず心配してる風な一週間が過ぎ、昨日連絡があった。

やめないとNは言った。

なぜやめないのか、彼は語った──おっぱいだった。

不特定多数おっぱいだった彼の恋の相手は会社の上司の独占おっぱいとなり、

社内(飲み会)からおっぱいは消え、ひとつの歴史が終わったかと思われた。

その結果がもたらしたのはショーケースの中のおっぱいだ。

女子社員はたくさんいるのに、おっぱいに触れることは許されなかった。

Nは言う。

「目の前に触れないおっぱいがあるんだ、ほんと、僕は科学を信じてるし唯物論者だから、

目の前にあっても触って確かめないとおっぱいかどうか、怪しいもんだと思ってる。

 いやらしい意味じゃなくて僕の知的好奇心は日に日に増したよ。

 いや、僕だけじゃなかったんだ。社内には餓えた若いおっぱい信者、

 言わば以前は不特定多数おっぱいを当たり前のように揉んでいた

 男性社員が黙っちゃいなかった。飲み会は荒れたよ、でもおっぱいを独占したのは

 上司で、若い連中はどこにも怒りをぶつける事はできない。

 ただ、飲んで紛らわそうとするヤツもいたし、60キロの車の窓から手をだして風の

 感触を見たり、小太りの男性社員で揉んで見たり、僕たちは努力したんだ。

 けれどダメだった。それらはおっぱいじゃないんだ。いっそ忘れてしまいたかった。

 でもそれは無理なんだ、だって目の前に他の女性社員のおっぱいがあるんだもの」

驚くべきことに、その後絶望する彼らの前に現れたのは若いおっぱいだった。

先輩を気遣ってかセクハラか、僕には判断できないが、

別の女子社員が不特定多数おっぱいを一般向けに解放した。

そうして、社員のストレスは発散され、おっぱいがあるからがんばれる、

がんばれるからおっぱいだと言う風に、彼は退職を思いとどまったそうだ。

他の社員達に高まっていた職場への不満も、新しいおっぱいによって

一時的に解消されたのだ。そういう仕組みになっているのだろう。

おっぱいは循環し、おっぱいは解放され、男性社員は希望を見出す。

意志薄弱なぼくなど、そういう現場に放り込まれたらどうなるのだろうか。

おっぱいがあるんだから頑張ろう、そういう同調圧力に耐えられないかもしれない。

僕はロマン派だったので、おっぱいの中身は夢や希望が詰まっていると思っていた。

考えを改めるべきかもしれない。

彼の会社に限ったことであろうが、おっぱいがブラック会社運営に一役買っているのだ。

おっぱいはもっと幻想的で神秘的でなければいけない、そう思っていた。

所詮本物をしらない僕の幻想おっぱいなど砂上の楼閣で、いとも簡単に瓦解した。

考えてみればおっぱいは何なのか、映画や小説、または動画で見たことがある。

これは何かに似ている。心霊写真に写る幽霊は目視できるけれど、決して触れないしまあああ

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