2009-05-29

通勤バスの中で、私は一番前の1人がけの座席に座ってメールをみていた。段差があるのでお子様やお年寄りのご利用はご注意下さい、と注意書きのある席だ。

カートを曳いておばあさんが乗ってきた。すれ違いざま、

ケータイ切っといてよ。あたしゃ具合が悪いんだよ。倒れたら責任とってくれんのかい」

背後で、おばあさんが優先座席に座った気配がした。

独り言のような言い方だったが、私に言ったんだとケータイを閉じた。

優先座席で言われるならまだしも、と反発心がむらむらとわきあがってきたが、なにを言っても見苦しいことになるだけだと思って心の中で毒づくだけにした。

私は普段はお年寄りには寛容であろうと心がけている。遠く離れた祖母だと思えば、ぶつかられても腹は立たない。

だからこのような反発心には自分でも戸惑った。

年寄りが多い地域に住んでいるが、穏やかで上品なおばあさんばかりで、志村けん演じるおばあさんそのもののような話し方を聞いたのは初めてだった。

慣れない私には、悪意を振りまいているように見えた。

悪意をもって接すれば、人に悪意を起こさせるのか。

私は見知らぬ人に不用意な悪意をぶつけるまい、と結論付けた。

そこで、ふと、

おばあさんには私がケータイを触っていることが悪意を振りまいているように感じたのかもしれない。

と思い至った。

そうなるともう、私は自分の怒りが正当でなく思われ、おばあさんへの反発は消えて不快感だけ残った。

おばあさんが降りたのを確認して、私はケータイを開いた。

誰かにメールして気持ちを晴らすわけでもなく、ケータイを開くことで意趣返しをしたつもりになるしかなかった。

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