僕は今月入ったばかりの新入社員。
飲み会があまり好きではないので、学生時代も強引に誘われない限りほとんど顔を出さなかった。
もともと酒は弱いし、唐揚げをごはんと一緒に食べられないのも嫌だ。
会費も高いし、先輩とは何を話せばいいか分らない。タイミングが悪いとぼっちになったりろくなことがない。
でも社会人になった以上避けられないよなあ、なんて思っていた矢先、
指導係の上司から急に飲みに誘われ困ってしまった。うーん、億劫だ。奢ってくれなくていいから家に帰りたい…。
しかしそこでふと、事務所脇のパイプ椅子に座りタバコを吸っている先輩と数秒目が合ってしまった。
おそらく30代後半かな。ちょっと肌のハリは落ち着いてきているけど、低音で無駄に良い声をしている。
デスクに娘さんらしき幼女の写真を挟んでいたから、きっと既婚者だろう。
まあいい。その場は適当な理由をつけて申し訳ないと思いながらも断ってしまった。
その日の業務が終わり帰り支度をしていると、先刻目に留まった先輩に背後から話しかけられた。
「上司もお前と親睦を深めようと誘ってくれてんだろう。これから仕事教わっていくんなら
自分から連れてって下さいぐらいの気持ちじゃないと。新人なんだからさ。」
貴方が僕の気を逸らすから。いわば貴方のせいで、飲み会を断ってしまったようなものなのに。
そう考えるとちょっとだけこの先輩に抗いたくなって、生意気な口答えをした。
「わかってますよ。僕だって歩み寄ろうという気持ちはあります。」
「今日の件はもう終わったことですし、なんだったら…先輩と二人きりなら行きますけど?」
すると先輩は、切れ長の目を気持ち丸くさせ、驚いているようだった。
「ああ、でも先輩は奥さんが家で待ってますよね、気にしないで下さい。」
動揺しているのを気取られないように、お先します、と言いそのまま先輩の前を過ぎようとした瞬間、
左手を掴まれた僕はいとも簡単に体を引き寄せられた。
気付いたら僕たちは狭い、薄暗い、ホテルの一室にいた。
ふわふわとした意識の中で、僕の口は先輩の右耳に何かを囁いている。
ちょっとモミアゲの長い、日焼けした先輩の顔が、首筋が、ほんのり赤らんでいる。かわいい。
なにかに必死に耐えるように声を殺している様子に、僕の中で何かが込み上げてくる。たまらない。
僕は今まで、こんな経験をしたことがなかったというのに。
初めてで、なのに、10歳以上も年上の、会社の先輩に対して通常持つべきでない感情、感覚が芽生えている。
ホテルを出て、帰り際に先輩は僕に言った。「俺バツイチなんだよね。だから今家で待っててくれる人とかいないんだわ。」
言い逃げするようにぷいとそっぽを向き、駅に向かって歩き出す先輩の項は、朝焼けのように染まっていた。
「新人なんだから積極的に付き合いしないとダメだよ」って説教したら、 「先輩と二人きりなら行きますけど」って言われて、キュンとなって二人で飲みに行った。 そのあとラブホテル...
僕は今月入ったばかりの新入社員。 飲み会があまり好きではないので、学生時代も強引に誘われない限りほとんど顔を出さなかった。 もともと酒は弱いし、唐揚げをごはんと一緒に食...
ウホッ!