男が居た。
男は目が不自由だった。
かろうじて外の光がぼんやりと感じられる程度であった男の願いは、一度でいいから光に溢れた外の風景を見てみたいというものだった。
ある日、視覚障害者による絵画サークルがあることを知った。そこには不思議な先生がいて、風景の見方と描き方とを教えてくれるのだという。
何月かサークルに通ったある日、男は自分が外の風景の輪郭が色が光が以前より強く感じられることに気づいた。先生は男を筋がいいと褒めた。
もう何月かすると男は絵筆を握っていた。そして最初の風景画を完成させた。強い悦びに溢れ、男は外の景色を描き続けた。
ある日、噂を聞いた画商がサークルにやってきた。画商がそこで見たのは部屋一杯に飾られた膨大な数の自画像だった。不思議なことにどの自画像にも目だけが描かれていなかった。