(http://www.php.co.jp/magazine/voice/)から。
原油や穀物価格の高騰が消費者の懐を直撃しており、「インフレ」に関する報道が盛んに為されているところである。生活者から見た「インフレ」をどう見たらよいのだろうか。上野泰也氏の論説は、日米欧の物価動向を概観しつつ、現状観察される価格高騰は「本物のインフレ」には至っていないと論じる。
氏の議論を敷衍してみよう。まず氏は、日本の物価状況の根底にあるものは人口減少・少子高齢化に起因する国内需要減少と過剰供給の組み合わせによる、根強いデフレ圧力であると論じる。そして、原油・食品の価格高騰は、ヘッドライン(総合指数)のCPIを上昇させてはいるものの、エネルギー及び食品を除いたCPIは前年同月比ゼロ%近傍に張り付いている状況であることから、「インフレ」は部分的なものであるという。この指摘は至極真っ当だろう。さらに言えば、先進国(米・欧)においても事情は同じであり、ヘッドラインの物価指数は4%~5%程度の伸びなのだが、コアベースの物価指数の伸びは2%程度であり、特段懸念材料となる話ではない。上野氏は、コストプッシュ型のインフレが個人消費を冷やすことで景気面からデフレ圧力として作用していることが現実に生じていることと論じるが、日米欧においては実態経済の悪化に力点を置いた政策を採っていくべきだろう。
では、原油・食品の価格高騰がコア部分にも波及し、「本物のインフレ」に転嫁していくための条件とは何だろうか。それはしばしば言及される「賃金の上昇」である。論説中で纏められる「本物のインフレ」が成立するための三条件は以下のとおりである。
1.「期待インフレ率」の上昇
2.値上がりしたものを買うことが可能になるような消費者側の「賃金・所得状況の改善」
3.消費者に直面している「企業の側の価格支配力」がおしなべて強いこと
これらの三条件の現状はどうだろうか。上野氏は、1.については、日銀アンケートの結果は期待インフレ率の上昇を示唆するものの、生活必需品の急激な値上がりという生活から回答数値は上ぶれしている可能性が高く、期待インフレ率の上昇度合いや持続性には津透明感が漂うと論じている。さらにブレークイーブンインフレ率の動向は過去のレベルと大差が無いという事実もある。
2.については現状全くといってよいほど期待できない。先日のエントリでも纏めたように、70年代の狂乱物価においては企業の利益向上が賃金上昇を成立させ、物価上昇を吸収できていたわけである。アジア諸国においては物価上昇が賃金上昇に結びつき易い構図があるため、中銀は金融引締めを採用しているわけだが、日本の国内需要は弱く、労働組合の組織率が趨勢的に低下しており、企業のコーポレートガバナンスの形態が株主重視へとシフトしている、といった要因が安易な賃金上昇を抑制する要因となっている。さらに、企業の経常利益も原油・食品の価格高騰により減少している。賃金の伸び悩みと物価上昇がセットになって実質賃金の停滞を招いているわけである。
3.も期待できる状況には無い。勿論、必需財かつ代替財が容易に得られない商品については原材料価格高騰に伴う価格の上乗せが達成され易いが、上野氏が指摘するように、日銀短観の「国内における製商品・サービス需給判断DI」は大幅な供給超過で推移している。つまり多くの財について価格支配力が弱いというわけだ。
内需の構造的な弱さを鑑みると、外需に依存せざるを得ない状況では米国をはじめとする世界経済の苦境が解消されるまで、しばらく苦しい状態が日本経済を襲うことになる、という上野氏の見立ては正しいだろう。
己を省みずに敢えて言えば、展開されている論旨・論理が支離滅裂で頭が痛くなってしまうような経済論説が多いと感じるのは私だけだろうか。今月のVoiceでは、丹羽・中川両氏による対談がその際たるものだと思うが、両氏はエコノミストではないし、「読むべきではない」と一言言えば良いだけなので大目に見ることにしよう。私にとっての「良い論説」のイメージは、展開されている論旨が明確・正当であり、かつ読者が論旨に基づいて、データ等によりその当否・今後を確認できるというものである。上野氏の論説はその意味でお勧めである。
クソ長いから適当にまとめてみようと思ったけど、これであってるのかな? ・インフレだって言ってるけど、原油価格が上がったぶん価格に転嫁されてるだけだよね ・そもそもジジバ...