2008-04-11

夕方の電車に乗っていたときの話

混んだ電車に乗ってつり革を掴んでいたら、歩き方のぎこちない中年の女性がゆっくりと乗り込んできた。女性はかなり太っていて、そんな歩きかたなので、ゆれる車内で立ち続けるのは大変そうだな、と考えかけたとき、少し離れた場所から「ここ空いてますから!!」と声が響いた。「響いた」と書いたのは、それだけ大きな声だったということだ。そちらを見ると、人混みの向こうで若い女性がにこにこしながらその中年女性のほうを向いていた。若い女性小学生にも、20代にも見えて、年齢がよくわからなかった。

中年女性は自分が声を掛けられたことに気付き、「あら…ありがとうございます」と、その若い女性が立った席のほうへ歩いて行った。既に電車は出発し、揺れる中混んだ車内を「すみません」と言いながら掻き分けて(皆歩きやすいように道を空けてはいたが、それでも車内は狭い)やっとその席にたどり着いた。その間、若い女性は3度位大きな声で「はい!ここ空いてますから!」「どうぞ!」と言っていた。中年女性が小さな声で「すみませんね」と若い女性に言うと、若い女性は「いいえいいえ!」とこれまた大きな声で答えた。中年女性がぺこぺこと頭を下げ、シートに腰を下ろすとまた「大丈夫ですかあ?」と声を掛けた。

あまり大きな声だったので、必然的にその若い女性と中年女性に車内の注目が集まった。若い女性はにこにこしていて、中年女性はその集まった注目に気付き、恥ずかしそうにしているようだった。

3駅位過ぎ、中年女性電車を降りていった。そのときも若い女性は何事か声を掛ていた。会話の内容は良く聞き取れなかった。

俺はその若い女性が、声が大きいのはともかく、口調があまりにもわざとらしかったことに、かすかに不快感を覚えた。さらに、そんな離れた席を譲らなくても、もっと近いところに座っている人が席を譲れば中年女性も周囲の人に謝ってまで移動に苦労したりせずに済んだのに、若い女性が「ここ空いてますから!」と大声を発したことで、他の人が席を譲るタイミングを逸してしまったのではないか、とも思った。また、中年女性はそこまでして席に座りたかったのだろうか、注目を集めて恥ずかしい思いをする位なら3駅位手すりにつかまって立っていたほうが気が楽だったのではないか、とも思った。

また何駅か過ぎ、車内は空いてきて、俺の立っている位置から若い女性が良く見えるようになった。

俺はその女性が手にしている鞄に、白い名札が縫い付けてあることに気付いた。

自動的に、これまでの彼女の言動と、その白い名札が頭の中で結びつき、彼女がどういう人なのかを理解した、というか想像した。

それで、「なら仕方ないか…」と一瞬考えた、いや、考えてしまった。

直後、俺は死んだほうがいいのかもしれないと思った。俺のような人間は死ぬべきだと思った。電車を降り、ぐったりとした気分で道を歩いていたら涙が出てきて止まらなくなった。

今も俺は死ぬべきだと思っている。が、なぜそう思うのか、こうして文章にしてみても、はっきりと分からない。

死にたくない。どうすればいいのか分からない。恐ろしくて眠れない。

  • ええと、よくわからないのですが、「白い名札」というのはなんでしょう。 知能が未発達等の精神障害を抱えているために療養施設に所属している人、ということかな? そういう人なら...

  • これって「ここはとあるレストラン」みたいな話かな? 特に真相は決められてなくて、みんなで考えてねってやつ

  • 黒田崇矢・大塚明夫 KOVラジオを聞いて、ほんの少しだけやれることの範囲を広げてこい

記事への反応(ブックマークコメント)

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