いまではないばしょ、ここではないじかん。
そこには、かみさまと、かみさまのつくったらくえんがありました。
みどりと、みずと、ひかりにみちあふれたらくえんがありました。
だれもが、しあわせにくらしていました。
あるとき、このらくえんのかたすみに、さるたちがすみつきました。
さるたちも、ずっとながいあいだ、しあわせにすごしていました。
うまれるときにうまれ、いきるべきじかんをいき、しすべきときにしんでいました。
かみさまのきめたとけいにしたがって、しあわせにしあわせにすごしていました。
でも、あるとき、きがつきました。
ここには、じぶんとおなじかたちをしたものがいることに。
それはなんなのか。
さるたちは、きになってねむれませんでした。
かみさま、それはなんなのかおしえてください。
さるたちは、ねがいました。
かみさまは、ちょっとかんがえて、ことばをあたえました。
さるたちは、じぶんたちのとなりに、じぶんににたものをみつけました。
かたちがにていたものは、なかにあるものもじぶんたちににているようでした。
かれらとは、きずつけあうこともありました。
しかし、たすけあうこともできました。
ことばが、おおくのふこうをもたらしました。
しかし、それをたすけたのもことばでした。
そして、ながいじかんがたちました。
さるたちは、なんとかうまくやれるようになってきました。
さるたちは、ことばをたくみにあやつり、じぶんたちをふやしていきました。
しかし、どんなにふえても、さるたちはさみしくてしかたがありませんでした。
このせかいには、さるたちがみちあふれているのに、それでもさみしそうでした。
じぶんとにているものがそばにいるのに、やっぱりなにをかんがえているのかわからなかったからです。
ことばだけでは、みたされませんでした。
さるたちは、さらにねがいました。
かみさま、ほかのさるたちがなにをかんがえているのか、おしえてください。
かみさまは、ほかのさるたちのかんがえていることをわかるようにしてあげました。
さるたちは、おどろきました。
となりにいるおなじかたちをしたものは、じぶんとおなじようなものだ。
そう、ながいあいだおもっていました。
おばあちゃんがいて、おじいちゃんがいて、おとうさんがいて、おかあさんがいて。
あらそいもあったけど、それでも、そこにいるのはじぶんとおなじものなのだとおもっていました。
しかし、ほんとうはちがっていたのです。
となりにいるさるは、じぶんとはにてもにつかない、おぞましいかんがえをもっていました。
そのとなりにいるさるも、そうでした。
みわたすかぎり、だれもかれも、ちがうかんがえでみちあふれていました。
さるは、こわくなりました。
なにもしらなかったころは、あるがまま、なすがままにすごしていました。
ことばをしってからは、ことばをかわしたときだけ、となりになにかがいることをかんじていました。
そこには、よろこびもいかりもかなしみもありました。
さみしさもありましたが、うれしさもありました。
でもいまは、このせかいはおぞましさでみちあふれていました。
そしてさるはねがいました。
かみさま、じぶんとおなじようなおもいをもっていないものたちを。
このさるたちをほろぼしてください。
かみさまは、そのねがいをかなえてあげました。
さるたちは、みなきえさりました。だれもが、ちがうかんがえをもっていたからです。
かみさまは、さるたちを、がいちゅうていどにしかおもってなかったのでとくにかなしみませんでした。
そしておもいました。
つぎからは、ことばをあたえるのは、やめておこう。
と。