男は無言で窓の外を眺めていた。
差し込む夕陽が彼の顔に深い陰影を刻み、彼の疲労を浮き彫りにさせていた。
「何が悪かったのだろう……僕は精一杯やったつもりだ」
誰にともなしに男は呟いた。実際にこの部屋に居るのは彼一人で、誰も彼の言葉を聴くものは居ない。
男は疲労感と共に自分の胸を圧迫しているのが寂しさであることに唐突に気づいた。
血筋のおかげの地位だとかボンボンだとか陰口を叩かれていることも知っていた。
優柔不断だとか仲間内だけでやっているとか非難されたこともあった。
「けれど僕は……目指したんだ、理想を。大切な仲間達と作り上げたかった、美しい国を」
男は目を伏せて溜息をついた。長いまつげが目の下に濃い影を作った。
――窓の外には夕闇が忍び寄っていた。
はかなげに佇む男はそのまま闇に溶け込んでいきそうなくらい――疲弊しきっていた。
バンッ。
男を現実に引き戻したのは勢いよく開かれた扉の音だった。
「ここにいたのか」
「あ、Aソウさん……」
入ってきた男は気忙しく戸を閉めた。
「二人の時はTロウって呼べって言っただろう、Sンゾウ」
そう言って微笑む男にSンゾウは弱弱しく笑みを浮かべた。
「……お疲れ様、よく頑張ったよあなたは」
「そうでしょうか」
自分と目を合わせようとせず不自然な笑みを浮かべるSンゾウを見てTロウは真顔になった。
そして。
グイッ。
「守ってやれなくてすまない」
Sンゾウは突然抱きすくめられて目を見開いた。その目にみるみる涙が盛り上がる。
「……っ」
もう、止められない。堰き止めていた思いが涙となって迸る。
SンゾウはしゃくりあげながらTロウの背中に腕を回した。
――知る由もなかった、自分を優しく抱いている男が邪悪とも言える表情でほくそえんでいるのを。
*
Tロウ×Sンゾウか