私はついに行き倒れた。手足は鉛のように重く、動かそうとする意志さえもう薄弱だ。だが、私は満足だった。信念通りに、独立独歩で生きてこれたのだから。そうして、疲弊しながらも満足を得て、瞼を閉じた。いや、閉じようとした。その時だった。
「大丈夫ですか!?」
上等な召し物を纏った女が私に駆け寄ってきたのは。女は私の汚い身なりも気にせずに手を貸してこようとしたので、私はありったけの力を込めて言った。
「触るな!!!」
と。女はまず声に驚き、そして発言に驚き、わけがわからないという顔で尋ねてきた。
「何故ですか?あなたはこんなにも疲れ切っているではないですか?早く手当をしなければ行き倒れになってしまうかもしれません!」
「そう。それでいいんだ。それが私の望みなのだから。」
「どうしてですか?死んでしまうのかもしれないのですよ?」
「私は信念を持って誰にも頼らず生きてきた。だから、あなたが私を助けるということは、私の信念を、それに従って生きてきた私の人生を、踏みにじるということだ。だから触らないで頂きたい。」
そう。私はずっと一人で生きてきた。とは言っても実際には人の手を借りることもあった。生まれたときは修道院の世話になったし、社会で生活をするということはそういうことだ。それに一人で生きることが最初からの信念であったわけではない。
私は善なるように、悪を行わないように、生きてきただけだ。だから嘘をついたことも、不正を見逃したこともない。施しを受けたこともだ。もっとも、そのために一人で生きざるをえなくなったわけだが。しかし、私は何も後悔をしていない。信念を貫いて、生きたいように生きた結果、こうなっただけであって、何ら恥じることはないし、むしろ誇らしく思っている。信念を貫けたことに対して。だからこそ、安い同情心などで汚して欲しくはなかったのだ。
大きな声を出してしまったことは申し訳ないが、そのような理由があってのことだと、簡単ながらも彼女にその旨を伝える。彼女は不思議そうに小首を傾げ考え、数秒の後、こちらを向き直し、笑顔を向ける。わかってくれただろうか?そして彼女は上品な笑顔で私に言う。
「要するに人生をかけた壮大なオナニーの途中でしたのね。それは御邪魔をしました。それではどうぞ続きをごゆっくり。」
原理的に生物は脳のオナニーによって生きているんだよ。