正直言って彼女のことが分からない。
相手のしたくないことはしたくない。
けど、何がして欲しくて何がして欲しくないのか、全然わからない。
ここまでしても大丈夫、ここから先はダメ。
それが俺の人との間合いのとり方だった。
俺はそういうのを察知するのが下手ではないと思う。
おかげでダサいし、変人で、童貞なのに、俺は場違いなまでにリア充達の輪の中に常にいた。
間合いが、彼女との間合い、それが分からない。
一緒にいたいと思った君との間合いがとれない。
近づきたい、触れ合いたいと思った君との間合いがとれないんだ。
所詮他人。言ってもらわなければ分からない。分からないんだ。
彼女といると彼女に遠慮し続け、怯え、そして俺が、俺らしい俺がいなくなる。
俺はタダの卑しいご機嫌取り。
こんなことがしたかったのか。
違う。
なぜこんなことに?
分からないよ。
訳が分からなくなっていた俺は、訳が分からないままキスがしたいと申し出た。
やけっぱちだった。
いきなりディープだったのには面喰らったが、徐々に上手くなろうねと言われ、軽く笑われたのには俺の心が冷たく揺れた。
彼女が上で、俺が下だった。
俺は彼女と近づくための間合いを探っているつもりだった。
違った。
俺は彼女に近づこうとしていたのではなく、彼女を俺に近づけることを恐れていただけだった。
俺は常に相手との間合いを計り、保ってきた。
その間合いのおかげで相手を不快にさせないことができたが、同時に俺は人に心を許したことが無い。
誰にも、だ。
親友、と相手に言われても実感がなかった。
俺が本当に親しくした相手など誰もいなかったのだから。
告白、それはやっかいなことだった。
俺の誰にも見せたことの無い、俺の本音を言うということに他ならなかったからだ。
彼女、それはさらにやっかいなことだった。
物理的にも精神的にも俺の間合いを破って彼女を入れなければ、それは叶わない関係だった。
欲しい。何でそんなに遠いんだ。
怖い。何でそんなに近いんだ!