2007-11-27

或る闘争

あるうどん屋チェーンでのことだ。

私がその日の昼飯であるカレーうどんを受け取ってカウンターの一席につくと、一つ空席を挟んだ隣に若い男が座っていた。

丼はすでに空であり、彼がすでに食事を終えていることは明らかだった。

彼は空の丼を脇によけ、仏頂面でオレンジ色の紙片に何事かを書き付けている。

それは、各席に備え付けられている「アンケート用紙」であった。

店員の態度かうどんの質か、何事かを腹に据えかねたのであろう彼は、その不満の意思をアンケート用紙に託し、もって店側に改善を促さんとしているのであろう。

やがてそれを書き終えた彼は、用紙を丼の乗ったトレイに置いて、仏頂面のまま席を立って店を出た。


ところでこの店は、セルフサービスという業務形態をとる軽食店の例に漏れず、空になった食器の類は客みずから所定の場所に返却するという方針を採っている。

彼はそれを知ってか知らずか、自分が居た席にそのままトレイを残した。

私がカレーうどんの過半を食べ終えた頃、一人の若い店員が、若い男の残していったトレイを下げに現れた。


店員は、彼の残していったトレイの上を一瞥すると、流れるような動作で、オレンジ色のアンケート用紙を握りつぶした。

その内容を一顧だにすることなく。


トレイを持って去ってゆく店員の背中を見送って、私は、カレーうどんの残りを啜りこむと、

(日常とは戦いなのだ)

という思いを新たにしながら、トレイを所定の位置に戻して店を出たのだった。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん