2010-07-08

例え話。

将棋をやってみることにした。相手は私の友人だ。どちらも将棋ルールは分からない。

ルールブックがないので、大会ビデオを見つつ、どうすべきなのか推測して指すことにした。とりあえず制限時間があるのを知ったので、同じ時間に設定した。

するとその内、友人が私に指図するようになってきた。

桂馬は縦にしか動けないとか、銀は好き勝手に裏返せるとか。その他いろいろ。

ビデオを見る限りそうではないが、彼は自分の都合のいいようにルールを変えるのだ。もちろん、私も従ってばかりなのは嫌なので、反駁してみるが、その都度彼は怒り出す。

「それは例外だ!それは例外だ!」彼は子供のように叫ぶのだ。

初めて指す将棋でなんだって私はこんなに嫌な思いをしなきゃいけないのか?

「もう辞めよう」思うがはやいか、私は彼に言った。

彼はやっぱりな、という風な顔をした。

「駄目だよ、がんばれよ。あのなあ、俺は努力してきたんだよ、向上心もあるし、前向きな性格をしている。お前はどうだ、ビデオを見てばかりで、どうせ何にも考えてないんだろ」

何の関係があるのだろうか。

「そりゃ頭の回転は遅いかも知れないけど、考えてるよ」

「じゃあ倍の時間を使って考えろ」そんなことしたら、残り時間がどうなるか分からない。

「倍考えないから、向上心がないから、努力しないから、後ろ向きだから不幸にならなきゃいけないの?そのとき、そのときを愉しみながら指すことの何がいけないの?」

「それじゃ負けちまう」

「別にいいんだよ。っていうか勝つ気なんてない。今を楽しみたいって言ってるんだ。勝って何になる?お互いに楽しめました、じゃだめ?」

共産主義者め」

「は?」

社会主義者、このぽんこつ、自分に才能がないからそんなクズみたいなこと言ってんだ」

なるほど。私はそのとき全てを悟った。そしてすべきことをした。

ひっくり返された盤から駒が落ちる光景は、今までの何よりもきれいに思えた。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん