住んでいたのは、かなり田舎だ。夜は真っ暗になる。
外の明かりは、防犯のために、誰かが来るとわかっているとき以外は消す。
目印になってしまう。建物の多い都会とは逆だ。
ある夜、ひとりで留守番をしていた。家族はみんなでかけていた。
居間で本を読んでいた。
10時を少しまわったぐらい。電話が鳴って、すぐ切れた。
直後に裏口のドアが、どんどん、と叩かれた。
10時で夜中もないものだが、「こんな夜中に?」と思い、放っておくかどうか少し考えた。
以前、「昆布を買え」だったかなんだったか、小学生低学年ぐらいの子供が戸口に立っていたことがあった。
大人が一緒だったらしく、県道から家までの暗い小道に、隠れるようにして様子をうかがっているようだった。
家からのうすぼんやりしたあかりの中に、みじろぎする人影が見えた。
それ以上のことはなかったし、どう説明したらいいのかわからないが、変な気分になった。ちょっと頭に来たかもしれない。
そのときは、私の母親も一緒だった。
母は、昆布をいくらか買い、「どうにもならないのよ」というように肩をすくめた。それ以上話題になることはなかった。
自分でもどうしてそうしたのかわからないが、私はチェーンをかけたままドアを細めに開けた。
誰も居なかった。闇夜というのに、人影が見えた気がした。
ドアを閉めた途端、また電話が鳴った。
ワンコールの半分ぐらいで、切れた。
今から30年近く前のことである。
携帯電話など見たことが無い。
一キロぐらい離れたところには、確か公衆電話があったはずーー。
直後にドアが、また叩かれた。遠慮がちなものではなく、確信しているような、どんどん、という叩き方。
頭にきた。
近くにあった、弟の竹刀を取りドアを全開にして外に飛び出した。
誰もいなかった。
自分のことを馬鹿みたいだと思いながら、一応、家のぐるりを見回ってから戻った。
あとで考えたら、「なんだか変だったかも(あぶなかったかも?)」と怖くなった。
思い出して、母にこのことを話したことがある。変な顔をして黙って聞いていた。
あんまり怖い話ではなくて申し訳ない。