常に一緒にいるような友人はクラス内におらず、高校から一緒に進学してきている馴染みの者しか、友人と言えるようなものがいない。そしてその馴染みの友人と言うのが全て別のクラスに在籍している。つまり一緒に授業を受けるクラスメイトがいないし、どうでもいい話ができるようなクラスメイトもいないということだ。かろうじて知り合い程度の、たまに瑣末な情報交換ができる程度の「知人」が数人いるばかりである。
彼はクラスの中で孤立している。留年した過年度生かと思われるほどの浮き具合である。いや、それならばまだ諦めがついていたことだろう。同世代のクラスメイトがいないのであればまぁ、しょうがないよな、と達観できたであろう。彼は他の大多数のクラスメイトと同時期に入学し、大多数がそうであるように現在二十歳である。残念ながら。
なぜ彼に友人がいないのか。それはおそらく、友達になろうという気概を彼が他者に対して積極的に向けなかったからであろう。無理に友人を作ることはない、今は他にやるべきことがある、それを終えてからでも遅くはないだろう。という考えが1・2年時の彼にはあった。彼が言う「やるべきこと」というのは、アニメを見る・バイトをする・本を読むなどなどの他者から見れば友達を作れないことへの言い訳めいた事柄ばかりである。この時点はまだ友達ができるか分かっていない状態だから、友達が作れない『かもしれない』という恐れから「友達は作れないんじゃなく作らないのだ」と言い訳するために作った事柄に見える、と言ったほうがよいだろう。
では実際はそうではなかったのかというと、彼にも確かなことが分かっていない。
大学入学前から彼の心には不穏な何かがあった。入学直前の休みの間、彼は形容しにくい焦燥感に駆られていた。ちょうどそのころ進学に伴い好きな女の子と離れ離れになってしまうし、告白はしたが遅すぎたというやや落ち着かない状況でもあったから、心がぶれてもいただろう。新天地である大学へ前向きに進んでいくような心を持てていなかった可能性はある。なおかつ彼はどういう理由で大学へ行くのか、大学の向こう側にどういうビジョンを持つのか、自分なりに答えを定めていなかった。周りの人々や情報に身を任せ、自立ならぬ他立でもって過ごしてきた彼に、志や譲れない何か、まして断言できる事柄なんて、頭の中にも腹の底にも無かったのである。
それでありながら彼はたまたま大学に受かってしまった。高校もなんとなくで受かっている。そこで高校もしくは大学に落ちていたら何か変わっていたかもしれない。流されるままの自分を見直す時期に恵まれていたかもしれない。言っても仕方のないことを言うのはそろそろやめておこう。流れに身を任せるだけの生き方を選んできた彼の自業自得だ。
そうして彼は流されるままに大学へ進んでいかざるを得なかった。自らの足をどこへ向け歩ませればよいのか、どうにもはっきりしない。今の僕の中にあるもやもやがそれである。
彼が求めているものはなんなのだろう。希望を見出せる未来だろうか?それとも一緒に歩んでいける友だろうか?それは彼には判らなかった。だからこうして文章を書いている。分かっていただけているだろうが、「彼」とはここまで文を書いてきた僕である。主語を僕とか私とかにするとどうにも正直に書けない。一応ここまで書いてきたことは、自分の中では極めて客観的なものだと感じられる。僕はこうして自らを「自分の中の他者」の視点から書くことで自分をしっかり見つめ直そうと考えた。ゆえに書いた。
お前自身のことだな?
「求められることは何だろう」「何だったら求められていると信じ込めるだろう」と思うことで、もしかしたら「求めていること」に近づけるのでは? 最初のうちは信じ込んでいたこと...