2009-11-21

おばあちゃんが死んだときの話

もう五年か六年前の話。

高校生だった。夏休みだった。ある日祖母が入院した。検査入院だった。

でもその夜のうちに、「容態急変」の電話がかかってきた。電話を取ったのは母で、おれにだけ告げてすっ飛んでいった。

おれは親父の部屋と、兄貴の部屋を回って、伝言を伝えて、

それから部屋に戻ってオナニーした。

母がおれの部屋の戸を叩いたとき、その最中だったから。中断させられてしまったオナニーを続行した。

容態急変の意味は分かってた。薄々そのあとのことも予感していた。だけどとりあえず、途中だったし、暇だったし、他にすることもないし、親父と兄貴は何か話していたけど、おれはそこに混じるのもめんどくさかったし、

部屋に籠もってオナニーして後始末してぼけっとしてたら母親から電話がかかってきた。

「だめだった」と泣いていた。「そう」と言って切った。それから今度は親父にだけ伝えて、おれは寝た。

葬儀のときもおれは泣かなかったし、泣くじゃくる母親がおれの手を握ろうとしたけど避けた。祖母の遺体にも触らなかった。

言ってみれば人の死、悲しみとか、そういうものに向かい合う最初で(現在のところ)唯一の機会を、おれはオナニーしながらぼけっと見過ごしていたってことになるのかなと思う。

祖母が一人で死んだ夜、もしかしたら死んでいってる最中に。

そのことを思い出すだにほとほと呆れ返るし、なにか重大な間違いをしたんだって気さえするんだけど、

でもおれは今日オナニーをして過ごしてる。

最低限の羞恥心のおかげで、このことは誰にも話したことがない。

一年前のちょうどこの時期、祖母が夢に出てきた。誕生日プレゼントだよと言ってなにかの鍵をくれた。

起きてからめそめそ泣いた。

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