2008-07-09

親父が癌になった

歯が痛いといって歯医者にかかり,大学病院を勧められたのが一か月前。その病院で口腔癌であることが分かり,先日摘出手術をした。

あごの骨の半分を失い,右頸部リンパ節を全部取った。動きに関しては障害が残るだろうということであるがリハビリでどうにかなるだろう,ということである。

医者の説明は回りくどく,質問をしてもほしい答えは返ってこなかった。答えは何を聞いても,どんな場合であれ100%安心はないということと,だから訴訟をするなよという言い訳にしか聞こえなかった。そういうことを聞いているんじゃない。どんなに治療しても必ず転移している可能性はある,それ以外の病気の可能性だってある,そんなことはよく分かっている。四期で繊維浸潤性であるということがどういうことか,今の時代ならいくらでも勉強できる。リンパ転移したということがどういうことかもよく分かっている。検査に原理的にどのくらいの誤差が含まれるか,どういう難しさがあるのか,正しい判断をするのにどれくらいの知識と経験が必要なのか,そういうことだって医療には門外漢だけれどもいやというほど知っている。そもそも人はいつか死ぬのだ。完璧医療など最初から期待していないし,もし死んでしまったとしてもその悲しみを憤りにかえて無いものから罪を作り出したりなどしない。

知りたいのは客観的な現状と予後と今後の治療方針,それからこれから何が起きるかということを可能性が高い順に挙げてもらい,それに対する注意と起こった場合の覚悟をしたいというそれだけなのだ。私たちが知りたいのは百万分の一の可能性ではない。大丈夫という主観的な指標ではなく,数値的な目安を示してもらいたいだけなのだ。大丈夫が聞きたいわけではない。

苦々しい医療の場における訴訟という現状についてはよく分かっているから,訴訟を警戒する気持ちはわからなくもないのだが,何ともいい難い気持だけが残った。誠意だけでは生き残っていけないかもしれない,でも私たちはあなた方の敵ではないし,無事に命に別条もなく大きな手術を成功してくれたということには何事にも代えがたい感謝の気持ちを抱いているというのに。

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