2008-05-27

Yに/ 眼にて言ふ

だめでせう

とまりませんな

がぶがぶ湧ゐているですからな

ゆふべからねむらず血も出つづけなもんですから

そこらは青くしんしんとして

どうも間もなく死にさうです

けれどもなんといい風でせう

もう靜明が近いので

あんなに青ぞらからもりあがつて湧くやうに

きれいな風が來るですな

もみぢの嫩芽と毛のやうな花に

秋草のやうな波をたて

燒痕のある藺草のむしろも青いです

あなたは醫學會のお歸りか何かは判りませんが

黒いフロックコートを召して

こんなに本氣にいろいろ手あてもしていただけば

これで死んでもまづは文句もありません

血がでてゐるにかかはらず

こんなにのんきで苦しくないのは

魂魄なかばからだをはなれたのですかな

ただどうも血のために

それを言へないがひどいです

あなたの方からみたら

ずゐぶんさんたんたるけしきでせうが

わたくしから見えるのは

やつぱりきれいな青ぞらと

すきとほつた風ばかりです

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十数年前あなたに教えてもらった、もう擦り切れてぼろぼろになった本を読み返そうと思った。

けれども昨日はどうしても見付からなかった。今日は見付かるといい。

あなたの最期が、このようなものであったことを祈る。

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