本当のところは誰も望んでなどいないが、付き合いで催された忘年会。座敷には20数名の男たちがいて、その中に俺がいた。酒が飲める性質で本当に良かったと思う。ひたすら呑んでさえいれば、箸が転んでも笑えるし、場も切り抜けられる。
便所に向かうとき、間仕切り襖の向こう側を見た。こちらの人数の2倍ほどの若い男女。おそらくどこかの大学のサークルだろう。男女の境がはっきりわかるような席の配置だったが、3度目くらいの小便のとき、その境界はすっかり無くなっていた。ふと奥の方を見ると、笑いながら乳を揉まれている娘がいる。そこは境が無くなる前は男のゾーンだった。
忘年会の後は直帰。電車で向かいの娘を見ながら、酒の勢いで「今ならナンパすればどうにかなるんじゃないか。」などと考える。どうにかなっているのは俺の頭だ。やがて胃の方もどうにかなり、途中下車。駅の便所で口をゆすいでから鏡を見ると、どうしようもない顔が映っていた。しばらくホームのベンチで休み、終電間際の電車で帰った。
最寄り駅に着くと、電車の中では同じく一人だったサラリーマンは妻子に電話をかけており、男の待つ車に向かっている娘もいる。駐輪場は既に閉まっているので、ここからは20分ほど歩かなければならない。
10分ほど歩くともう周囲に人はおらず、家々は完全に寝静まっている。歩きながら今日を振り返っていると、唐突に涙があふれ出た。嗚咽というか、犬が気弱に吠えているような泣き声だった。今も独り。これまでも独り。これからも独り。俺は泣き続けたまま家に着いた。