「乙女だよね」
ある男はそう言って俺のことを、笑った。
好きな人とセックスをする。その行為が一回限りであると知ったとき、ある男は、セックスができたからいいや、と喜ぶ。俺はその行為の次の機会がないことを悲しむ。そしてその男は俺のことを、乙女だと言って笑う。本当、女の子みたいだよね、と言って、笑う。
きっとその子とは、付き合ったとしても長くは続かなかったかもしれない。趣味も価値観も大きく異なっていた。ある女友達が言う。
「そんなのと付き合ってどうするの?多分ね、その子は、君がどうしようもなくなってるときでも『がんばれ』とか『大丈夫』しか言えないよ。それでもいいの?」
それでもよかった。キレイゴトかもしれないが、俺はその子がそばにいてくれるだけで良かった。その子が自分の目の前で笑顔を見せてくれるだけで満足だった。
セックスなんていらない。それで関係が終わるのなら、肌を重ね合わせる必要なんてない、と今になって思う。もし誘いを断らなければもう二度と会うことはなくなってしまうのだろうということに、あの時は気付くことができなかった。たった一度の過ちに、これからしばらく苦しめられるのだろう。誘われるがままにセックスをしてしまったということで自分を責める、というのではない。最初で最後のセックスの思い出が自分の中で限りなく美化され、それがもう二度と無いことに絶望するのだ。
俺を笑った男のように、もう付き合っている人が他にいたとしたら俺も、一回セックスできたからよかった、と開き直れるのだろうか。