近所のカレーやさんに行った。
店内に入ると、例によって店員がいない。キッチンで作業音。
先客は一組。幼児、嫁、姑の組み合わせのようだ。嫁はちょっとぽやぽやっとした感じ。姑はちょっと品の良いおばさまである。
席を確保し一瞬躊躇する。いくら何度も来ている店でいつもカリーバイキングしか頼まないからといって、いきなり無言で皿を手にとって盛りはじめるのはまずくないだろうか。いつもは店員にちょっと挨拶して始めるのだが。
おばさまが店員を呼ぶ。
「おきゃくさまよぅ」
笑いの混じった、明るい声だ。
バイトの店員が一瞬出てきていらっしゃいませを言ってひっこむ。ひっこんでどうする。
とりあえずトイレに行って手を洗う。出てきて水を自分で勝手に用意して飲んで、落ち着いたところで「カレーバイキング食わせてもらいますよー」とキッチンに声をかけて盛り始める。おばさまが「もらうってー」と復唱する。
私はまずキーマカリーから始める。
甘みのあるカリーを食べていると視界の隅に幼児に対してカリーを食べさせようとしているのが見えた。
舌をつけるかつけないかで顔を引いてしまい、「んべっ」と舌を突き出す。
何度か挑戦していたが、食べてくれない。
母親が食べてみせた。
幼児が食べるようになった。
食べていると青年が入ってきた。店員がいないのでちょっとまごまご。
「またおきゃくさんよー」とおばさま。青年はレジに行き、キッチンを覗き込む。
ようやく店主が出てきた。
「あらいらっしゃい。こっちは初めてだっけ?」「ええ。お金先ですか?」「あとあと」
そうか、彼は向こうの店の常連なのだな。
このカレーやさんは東京のある大学の近くにも店舗があるお店で、こっちに店舗ができたときに「東京の名店がやってきた」とちょっとうわさになったのだ。
店主と青年がしばらく大学と昔の東京の店に関するトーク。カレーに関する歴戦の勇士といった感じである。
大学の話におばさまも絡んでほのぼの高学歴ゾーンを形成していた。いやみがないのがいやみという感じ。
聞いているだけで笑みがこぼれてしまう。
おばさまがピッチャーを持ってきて水を注いでくれた。
私はコップを取りに行き、青年の水を注いだ。
世の中はお互い様だ。
野菜カレーを食べ終わり、千円払っておばさま方と青年に挨拶して帰った。
長々と書いたのに読んでくれてありがとう。
青年が早速カリーを大盛りにする。 この部分が「青酸カリー」に見えた。一瞬。