ある村に、羊飼いの少年がいました。彼はいつも退屈で仕方ありませんでした。
ある日、彼は「オオカミが来たぞー! オオカミが来たぞー!」と叫びました。
村人はフォークや鎌を持って、何事かと駆けつけてきました。
しかし、実際にそこにいたのは、臆病な一匹の醜い羊で、オオカミの姿などどこにもありません。
「いや、あれはオオカミだ。醜い羊の皮をかぶったオオカミだ」。少年はこう言い訳しました。
村人はすっかり騙されて、その醜い羊を捕らえて殺しましたが、中にはオオカミは入っていませんでした。
「いや、オオカミが醜い羊の皮をかぶっていたのではない、オオカミが醜い羊に化けたのだ。いずれにしても危険だ」。少年は嘘の上塗りをしました。
こんな事が何度か起きるうちに、村人は、醜い外見の羊をオオカミだと思うようになりました。
他の村人が醜い外見の羊を飼っていようものなら、勝手に取り上げて殺そうとしたり、そうしないまでも「あいつは狼を飼ってる」と噂を流してしまうのです。
醜い羊を飼っていた飼い主は「こいつはオオカミじゃない、羊だ!」と抵抗しましたが、「見るからに迷惑だ!いつ我々の羊を襲うか知れないし、そんな危険なケダモノを平気で飼ってるのか!」と言って、無理矢理その羊を奪っては殺していくのでした。
「ほら、こいつは羊の肉じゃなくて草を食べてるじゃないか。なんでこいつがオオカミなんだ?」いくら反論しても、村人達は聞く耳を持ちません。「たまたま腹を壊して具合が悪いだけだろう。元気になればきっと俺たちの羊を襲うに違いねえや」。
そんなある日、本物のオオカミがやって来ました。
村の羊たちは、そのオオカミに次々と殺されてしまいました。
村人はそのオオカミを捕らえようとしましたが、逃げられてしまいました。
その代わりに、村では一斉に、醜い羊狩りが始まりました。
しかも今度は、醜い羊ばかりでなく、抵抗する飼い主まで一緒に血祭りに挙げられたのです。
村人たちは幸せでした。自分たちの羊を狙う醜い羊と、その醜い羊の飼い主は、もう村にはいないのですから。
・・・よかった オオカミを襲う少年はいないんだ
めでたし、めでたし。