ぐきり。悲鳴を上げる。ぐきり。顔を背ける。ぐきり。強制的に。
ぐきり、ぐきりと首を折る。気持ちよさそうに首を折る。折られた人は天を見る。曲がってはいけない方向に首を曲げて天を見る。
あいつが突然首を折りだしたのは十分ほど前。廊下側の一番前の席に座る、小柄な女の子の首をぐきりと折った。女の子も何が起きたかわからなかったようで、声にならない呻きがわずかに聞こえただけであった。だから、クラスの皆が気づいたのは、一部始終を見ていた、小柄な女の子の後ろの席の女の子の首が折られたときであった。自らの身に何が起こるのかわかっていたその女の子は、叫びながらぐきりと折られた。
教室はすぐにパニックになった。そして皆が一斉に廊下に出ようとすると、男はよく通る声で言う。動いたらこの子の首をまた折るぞと。その言葉に止まった皆は男の言う通りに、また自分の席に座った。逃げようと、抵抗しようとすれば、こいつの首は折ると言われたので皆は逃げられず、見ているしかなく、首に手をかけられた子は男の屈強な体にはどうすることもできず、泣きながら、震えながら、折られるのを待つのみであった。
男は一人の首を折ると目にも止まらぬ早さで次の子の首へと移動していたので、そこからは、前の席から後ろの席へ、廊下側から窓側へ、首折りショーの始まりだった。ぐきり、ぐきりと首を折る。気持ちよさそうに首を折る。よく冷えたチューペットを折るように気持ちよさそうだったけど、チューペットはあんなに鈍くは折れないから、サイリウムのようなのかもしれない。折ったことがないからわからなかったが、折られていく首を、曲がってはいけない方向に曲げられ天を見る同級生達の顔を見ながら、そんなことを思っていた。
そして、クラスでも臆病なのが有名な子の、前の子の首が折られようとした。したのだが、臆病な子は目の前でのそれを見ることができず、そして次に自分がサイリウムのように折られるということに耐えることができず、教室の出口へと駆けだした。男は予想外だったらしく、一瞬間が空いたが、次の瞬間には我を取り戻したように、その子に駆け寄り慣れた手つきで、ぐきりと、首を折った。しかし、それで決壊したのか、折られてないクラスの皆も同じような気持ちだったのか、またパニックが起き、皆で出口へと駆けだした。男は人間業とは思えない恐るべき早さでぐきりぐきりと首を折ったが、そんな彼もやはり人間なので手は2本しかない。残った20人程の子の首を一度に折ることはできず、暴徒と化した彼らにボコボコにされ、取り押さえられることとなった。誰かが持っていた手錠をかけ、警察が来るまで教室の後ろで確保しておくことになった。
手錠をされても、出所したらまた首を折るんだと、自慢気に、嬉しそうに語る彼を見て、私は思っていたことを、思わず声に出してしまった。バカみたい。運悪く彼に聞こえてしまったようで、彼は立ち上がり、私の首に手をかける。手錠をしてても首は折れるようだ。何がバカみたいなんだ?隠しきれない怒りを隠し、物静かに聞いてきた。誰かを殺すために生きるなんて、生きるために生きるんじゃないなんて、バカみたい。それこそ死んでるのと同じじゃない。少なくとも私たちの側からすると、あなたたちの側では違うのかもしれないけど、そう思えるわ。そう言うと、私の首から彼の手は離れ、そうかもしれないと、しゅんとしおらしくなった。
そんな夢を見た。え?夢落ち?かというとそうではなく、実際に今日見た夢の話。夢判断をすると(あてになるとは思えないけど)、どうなるのだろう。サイリウムは折ったことがないので、折ってみたい。聞いた話によると鈍く折れるらしい。どんな感じだろう。でも、首は折ってみたいとは思わない。やはりなにか怖いし、それ以上にそもそもサイリウム程に気持ちよさそうだとも思えない。だけど、男も似たような気持ちだっただけなのかもしれない。折ってみたいと思うのがサイリウムと首とで違うだけで。そう考えるとやはり私の夢なんだろう。