J.D.サリンジャー著で村上春樹訳の"The Catcher in the Rye"(ASIN: 4560047642)から主人公ホールデンの名言集を引用してみる。
"こうして話を始めるとなると、君はまず最初に、僕がどこで生まれたとか、どんなみっともない子ども時代を送ったとか、僕が生まれる前に両親が何をしていたとか、その手のデイヴィッド・カッパフィールド的なしょうもないあれこれを知りたがるかもしれない。" (p5)
物語の最初の書き出し。
"ゲームときたね。まったくたいしたゲームだよ。もし君が強いやつばっかり揃ったチームに属していたとしたら、そりゃたしかにゲームでいいだろうさ。それはわかるよ。でももし君がそうじゃない方のチームに属していたとしたら、つまり強いやつなんて一人もおりませんよっていうようなチームにいたとしたら、ゲームどころじゃないだろう。お話にもならないよね。ゲームもくそもあるもんか。" (p17)
スペンサー先生が「人生とはゲームなんだよ」と言ったことに対して。
"僕がうちに帰るときにはあの池はもう凍りついてしまっているだろうか? もしそうだとしたら、あそこにたアヒルたちはみんなどこに行くんだろう。池全体ががちがちに氷結したとき、アヒルたちはいったいどこに行くんだろう。誰かがトラックで乗りつけて、みんなを動物園とかそういうところに連れて行くんだろうか。それともアヒルたちは自分でどっかに飛んでいってしまうんだろうか?"(p25)
スペンサー先生の話を聞きながら頭の中でぼんやりと自分の家の近くにあるセントラルパークの池のことについて考えた時。
"でも、変な話だけどね、演奏が終わったとき、僕はアーニーのことをいささか気の毒にさえ思ったんだ。この男には自分がまともな演奏をしているのかいないのか、それさえもわからなくなっているんだろうってさ。でもそういうのって、本人のせいばかりとも言えないんだ。熱烈に拍手する抜け作どもの方にも責任の一端はあるはずだ。そういう連中が手当たり次第、誰だって駄目にしちまうんだよ。" (p141-142)
ピアニストのアーニーが演奏が終わった後にみんなが狂ったように挨拶をする中、すごくインチキくさい謙虚な一礼をするのを見て。
"僕が言いたいのはさ、君はなんらかの意味でこの前の君とは違っているということなんだ。" (p201)
博物館の展示物はずっと変わらないが、自分自身は常に変化しているということを説明しようとして。
"もし僕が真剣に死んじまったら、誰かが遺体を川にどぶんと放り込んだりしてくれないものかってさ。良識ってのはそういうものだぜ。何をされてもいいけど、ろくでもない墓地に押し込まれるだけはまっぴらだね。日曜日になるとみんながやってきて、君のおなかの上に花束やらその手のろくでもないものを置いてったりするわけだ。まったくもう、死んでいる人間が花をありがたるもんかい。冗談じゃないよな。" (p256)
公園のベンチで寒さに凍えつつ、このまま自分が肺炎になって死んだらどうなるかを想像して。
"死んでるってことはわかってるよ! 僕がそのことを知らないとでも思ってるのか? それでもまだ僕はあいつのことが好きなんだ。 それがいけないのかい? 誰かが死んじまったからって、それだけでそいつのことが好きであることをやめなくちゃいけないのかい? とくに、その死んじゃった誰かが、今生きているほかの連中より千倍くらいいいやつだったというような場合にはさ。" (p284)
妹のファービーに好きなことは死んだ弟のアリーのことだと言ったら、アリーは死んでるんだよと言われて。
"つまりさ、よく前を見ないで崖の方に走っていく子どもなんかがいたら、どっからともなく現れて、その子どもをさっとキャッチするんだ。そういうのを朝から晩までずっとやっている。ライ麦畑のキャッチャー、僕はただそういうものになりたいんだ。" (p286-287)
ファービーに将来なりたいものは何かと聞かれて。
"でも僕が言いたいのはですね、なんていうか、いったん話を始めてみるまでは。自分にとって何が一番興味があるかなんて、わからないことが多いんだってことなんです。" (p306)
話がすぐ脇道にそれてしまう友人のことについてミスタ・アントリーニが「まず一つのことについて追求するべきだ」と言った事に対して。
"僕は渡された紙を一読し、お礼を言ってポケットにしまった。わざわざそんなことをしてくれるなんてなんて親切なんだろうと思った。いや、本心そう思ったんだよ。ただ問題はさ、僕が意識をうまく集中できないってことだった。やれやれ、なんか急にどどっと疲れが出て来ちゃったみたいだった。" (p313)
ミスタ・アントリーニが「未成熟なるもののしるしとは、大義のために高貴なる死を求めることだ。その一方で、成熟したもののしるしとは、大義のために卑しく生きることを求めることだ」という書き付けを渡した時に。
"そこで何をするつもりだったかっていうとさ、聾唖者のふりをしようと思ったんだ。そうすれば誰とも、意味のない愚かしい会話をかわす必要がなくなるじゃないか。" (p329)
ベンチに座ってこのままどこか遠いところに行こうと決心した時に。