2024-02-16

やっぱり告白の時は口に出してほしい

彼とは大学入学時、サークル新歓コンパで知り合った。なんとなくコメントが合うとかそんな理由で意気投合したが、結局彼も私もサークルには入部しなかった。偶然は重なるもので、彼も私も文学部日本語科で授業でも一緒になることが多かった。

私が小学生の頃は、まだ少し日本語を喋る人はいた。亡くなった祖父と祖母が話しているのを一度だけ見たことがあるが、不思議な光景に見えてしまった。正直に言えば息を吹きかけあっているように見えて少し気持ち悪かった。だが同時に、かすかに聞こえた日本語の音に惹かれたことも覚えている。生で聞く音の感動が全身を駆け巡った。その時の体験が2割とそこしか合格しなかったという理由で日本語科に行くことになった。

今、わざわざ喋る人なんてほとんどいない。いつでも繋がってるし、話す必要なんてなくなってしまった。唯一、授業では単語をなるべく声に出すことを推奨された。残念ながら、みんなまともに声を出せず、教室は静寂かうめき声のどちらかだった。教授は"年々酷くなるね"とコメントしていた。

出会った頃の彼は、"話せるようになるために大学に来た"と熱量と意識が高く、私とは合わないと思っていた。合わないと思っていたのだが、なぜか彼のペースに引き込まれていき、2人で練習するようになった。少しできるようになると楽しくなり、どんどんのめり込んだ。簡単な文でも話せるようになると、声を出して話すことでの、コミュニケーションの遅さに心地よさを感じていた。自分で発する単語のひとつひとつ噛み締めているようだった。

2回生の春に告白された。ベンチで隣り合い、お互いにしか聞こえない声で告白された。声で告白されるなんて、なかなかない体験で嬉しかった。あんまり発声が上手くないから誰にも通じない日本語なのかもしれない。だけど、その時は心と言葉はハッキリ通じて、心地よい音に包まれた。ゆっくりと「よろしくお願いします」と答えたあとで、相手の声から伝わる緊張がドッと押し寄せてきた。ガクガク震えた自分の手を見て、「コメントでもよかったのに」と照れて言ってしまった。


たどたどしくても口に出して思いを伝えてくれると嬉しい。どれだけ歳をとっても、あの時の感情は忘れない。しっかり思いを伝えてほしい

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