「あなたの誕生日にデートがしたい」と言われたので誕生日にデートをした。彼女は半袖のアイドルみたいなワンピースにラフな加工の麦わら帽子を被っていて、大人っぽい見た目に少しも似合っていなかった。夏生まれの男の人は言うことなすことひどいんだって罵られてからはや一年、俺は相変わらず彼女にノーと言えない。恋人になってに対してのノー以来、俺は彼女にノーと言えなかった。行きたいと言われたところ全部行った。満員電車は嫌だから歩こうこ言われれば一駅分くらい平気で歩いたしアイスクリームが食べたいと言われれば食べたし狭い路地に入りたいと言われれば入ったし猫が触りたいと言われれば彼女が満足するまで待ったし煙草を吸いたいと言われれば吸い終わるのを待ったしボートを漕いだしお弁当を食べたし風船を持った大道芸人に拍手したし楽器屋で彼女のピアノ演奏を聴いたし将来の夢の話をしたし海を見たし焼肉を食べたし花火をしたし性行為をしたし疲れて眠った。眠っている間は夢を見た。彼女ではない女の子が布団にくるまっているところに救急車が来て青いシートで部屋を覆って顔のない着物の男に『この先には入れません』と出口を塞がれたので壁を押して狭い部屋を広げた。その後どこかの旅館にいて階段を降りた先にある蝋燭からロウをもらって首に塗りたくってジッポライターで溶かしていいシャツになった俺はこのままサッカーができると考える夢だった。目を覚ますと彼女はこの世にいなかった。大量の睡眠薬を飲んで冷たくなった風呂の中に浮いていた。冷たいのは彼女の体の温度ではなくお湯が冷めたからなんだと考えた。彼女は語らなかった。昨日話した将来の夢は嘘だったんだと思った。25歳の誕生日、俺が初めて知ったことといえば、俺は人が死んでいる時に第一声で「おっ」と声を出すんだと言うことだけだった。