あるところに赤ずきんちゃんがいました。
赤ずきんちゃんは今日もいつも通り、朝から赤ずきんをかぶっていました。
リビングでのんびり紅茶を飲みながら本を読んでいる赤ずきんちゃんに、お母さんは言いました。
「あんた、ずっとそうしているつもりなら、ちょっとお遣いに行ってきてくれない?」
「えー?」
「ウーちゃんのところでお昼に食べるパンを買ってきて欲しいのよ。」
「あー。」
本を読むのに夢中でしっかり返事をしない赤ずきんちゃんを気にもとめず、お母さんは続けます。
「最近、ウーちゃんの作ったパン、評判いいのよー。ほら、お金ね。」
「んー……。」
「あんたが買ってこないと、今日はお昼無いわよ!」
赤ずきんちゃんは本から顔をあげて、わざと大げさに恨めしそうな顔をしてみせましたが、お母さんには利きませんでした。
赤ずきんちゃんは、赤いずきんの洗濯も修理も何もかもお母さんにやってもらっているので、お母さんには逆らえません。
「どんなパンでもいいのね?」
「菓子パンばっかりじゃ嫌よ。いってらっしゃい!」
「はーい。行ってきま~す。」
ウーちゃんは、赤ずきんちゃんが小さいころに赤ずきんちゃんの隣の家に住んでいた男の子で、昔はよく一緒に遊んでいました。
今は村に一つあるパン屋さんで働いています。最近やっとウーちゃんもパン作りを任せてもらえるようになったのでした。
「やっほー。久しぶり。景気はどう?」
お店に入ると、ちょうどウーちゃんが焼きたてのパンを並べているところでした。
「おー、赤ずきんか。ほんと久しぶりだな。パン買いに来てくれたのか。」
「まあ、そんなとこ。これ全部ウーちゃんが焼いたの?」
「いや、これとこれ。あと、これが俺の焼いたパン。」
ウーちゃんは細長いパンと、四角いパン、それから今お店に並べたばかりの小さな丸いパンを指さして言いました。
「ふーん? すごいね。」
「お前、まだ赤いずきんかぶってんのなー。」
「ほっといて。好きでやってんだから。」
「変わんないなあー。ははは。」
ウーちゃんの見慣れた笑顔を見て、赤ずきんちゃんは「ウーちゃんも変わんないな」と思いました。
「ねえ、ウーちゃん。私、アップルパイが食べたい。」
「はあ? うちの店には無いぞ、そんなもん。」
「作ってよ、ウーちゃん。」
「作ったことねーし。無理言うなよ。」
「でも、私、アップルパイが食べたい。」
「わかったよ。今度リンゴ持ってこい。そしたら作ってやるよ。」
「やったー! 絶対だよ? 約束だからね!」
赤ずきんちゃんには、ウーちゃんは絶対に赤ずきんちゃんのわがままを聞いてくれるということがわかっていました。
昔からずっとそうだったからです。年月が経っていても、二人の関係は変わっていませんでした。
赤ずきんちゃんは、ウーちゃんのお店でメロンパンとクリームパンと、ウーちゃんが焼いたばかりのあんパンを買ってお家に帰りました。
ウーちゃんの焼いたパンは評判どおり確かにとてもおいしいものでした。