彼女はグラマラスで、鼻がペチャンコだった。その姿はぼくに、端的に言って豚を連想させた。特別デブだった訳ではない。彼女はヒールを履くと、身長170cmの僕とほぼ同じ高さになった。骨が太く、お尻も大きかった。
確かに美人ではなかった。でも可愛かった。それがあばたもえくぼの類だったにせよ、そんなことは当時の僕にはどうでも良いことだった黒のブラが良く似合った。
彼女の鼻をつまむのが好きだった。ぷにぷにして、やわらかかった。もしかした彼女の鼻をつまみながら「ぶひぶひ」とか言ったかも知れない(言いそうだ)。「このブタみたいな鼻が好きだ」とも、言ったかも知れない(言いそうだ)。鼻をつまむと彼女は目をつぶっていやいやをした。自分が一番気にしているパーツを褒められても、嬉しくはなかったのだろう(今ならそう思う)。でも、やっぱり可愛いと思っていた。より正確に言えば可愛いと思おうとしていた。そしてそれは自分の中で上手くいっていたと思う。
彼女は頭の良い子だったから、自分の容姿が美人でないことはわかっていた。あからさまに「ブス」と言われたことも、あったかも知れない。
きれいな女性は彼女以外に沢山いる。けれども、当時の僕のために気を使い、当時の僕のために心を砕き、当時の僕を愛してくれた女性は、勿論彼女しかいない。その事実に心が傾かない方がどうかしている。
僕は彼女が好きだった。そして、もっと好きになろうとしていた。そして何もかも僕が台無しにした。さよならぼくの子ブタちゃん。