長らく漫画,とりわけ少女漫画は読みづらいと感じていた。先日ようやくその原因がわかり,克服することができたのでここに記しておきたい。
少女漫画において紙面に書かれている文字には3つの相,というか「法」がある。ドイツ語で言うところの直説法・接続法Ⅰ・接続法Ⅱだ。これを前提として把握しないことには言葉の意味を理解できない。私はただ紙面の文字をそのまま平面的につながるものとして読んでいたので混乱したのだ。
第一に,人物が声を出して発するセリフがある。しばしば実線の丸フキダシで囲まれており,誰が話したか明瞭にわかるように指示されている。人物Aはこう言った。
第二に,人物が声に出さずに考えている内容。コマ内の余白にそのままベタ組みされる。誰が考えたことなのか形式上は指示されないが,文脈から容易に察することができるようになっている。人物Aはこう考えた。
第三に,人物がその場面において声に出さずまた考えたわけでもないテキストがある。やはりベタ組みされるのだが,字体の上で第二と異なる。第二は明朝体(フキダシと同じ)で,第三はゴシック。意味が不鮮明で断片的であり,感傷的な表現を多用する。あたかも登場人物が後日に過去の記憶をふりかえって叙述しているかのような文章体裁をとる。小説で言うところの地の文に近い。
漫画を読み進めていく上で,ただテキストを追うだけではいけない。テキストは各々の法ごとに独立している。たとえば人物が言っていることと思っていること,そして地の文で記されていることが異なることは当然ありうる。そのテキストがどの法に属しているのかを理解し,各法ごとに意味を読み解く必要がある。