いちばん困るのは、ある思考について、それをいま初めて思いついたのか、それとも昔から思いついていたのか、分からなくなってしまうことだ。いや、記憶が前後するだけならまだいい。もしかしたら、自分のアイディアであると思っているそれは、ずっと前に読んだ小説の一部だったりするかもしれないのだ。つい先日、友人から聞いた話だったかもしれない。そういう可能性がある、という話ではない。本当にそんな気がしてくるのだ。そして最悪なことに、自分のアイディアが自分のアイディアであると確かめる方法は、ほとんどまったく存在しない。自分の思考が他人の思考であるかもしれないまま、私は自分の思考を話さなくてはならない。「それって○○さんのアイディアだよね、なんで自分が考えたみたいに言ってるの?」と言われないか脅えながら。