2009-01-22

残留殺意

まず、私はゲイだ。
ファッション的な性癖ではなく、本当に彼を愛していた。
ずっと一緒に居たいと思っていたし、それはお互いに真剣だった。
けして受理されない二人のサインの入った婚姻届をお守りのように大切にしている。

それなのにある時、彼が浮気現場を目撃してしまった。
私達の共通の友人だと思っていた男と、彼は頻繁に体の関係を持っていたのだ。
その時、友人の男に明確な殺意を抱いた事を認める。
友人の男を殺害する事しか頭になくなってしまった私は、
友人の男の部屋の合鍵を手に入れる事に成功した。
彼と友人の男が行為に及んでいる所に押し入り、
目の前で友人の男を殺してやろうと出来るだけ緻密な計画を練った。

そして、遂にその日が訪れた。
私はチェストからこの日のために用意した、大口径の拳銃を取り出した。
とても威力の高い、どこを撃っても致命傷になるようなものを選んだのだ。
これから行う事に胸が高鳴った。
自分の中に黒々と沸き起こるその殺意を認め、変態的な興奮を覚えた。

その計画は思う様にすすんだ。
心の中で、彼が思い直す事を望んでいたが、それがかなわなかった事だけが残念だ。
ベッドルームで裸になり抱き合う二人をみとめると、拳銃を向けて声をかけた。
撃鉄を起こして脅し友人の男を立たせると、そのこめかみに銃口を押し当てた。
その時点では殺す気だった、怯えて崩れた顔を見ていて歓びすら感じていた。

だが、どうしても引き金が引けなかった。
津波のように罪悪感が押し寄せ、悪意を全て押し流してしまった。
激しい後悔にとらわれ、拳銃を投げ捨てると友人の男に向って土下座をした。
確かに殺意があった、しかし後悔をしている、どうか許して欲しいと。
友人の男は声をあげて笑いながら床に転がる拳銃を拾い上げると、状態を確認しながら私の額に銃口を突き当てた。
口汚く私を罵ると、撃鉄のあがったままのそれの引き金をわざと見せ付けるように引き絞った。

間一髪だった、とっさに友人の男にアメフトでのタックルのように飛び掛ると、乾いた破裂音と共に床に穴が開いた。
硝煙のツンとした香りが脳のどこかを刺激する、何もしなければ死んでいただろう、私を殺すつもりだったのだと感じた。
飛び掛った時は無我夢中だった、何も考えず押し倒した。
友人の男は苦しそうに呻きながらも、私に照準をあわせようとしていた。
その時殺さなければ、殺されていた。
私は銃を向けられた反射のように、友人の男の首を手で絞めた。
死ね死ね、人の彼をとった報いだ、死ね
殺意はまだあったのだと思う、無意識の内にそう叫んでいた。
私は友人の男を、この手で絞め殺した。

今、私は法廷に立っている。
私は上記の事をすべて隠さず話し、彼も全て認める証言をしている。
高らかに鳴り響いた木槌が、私への判決を言い渡した。

※作中の「私」は罪に問われるだろうか?

※全て真実で偽証は一切無く、全ての件に裏付ける証拠が提出されているとする。

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