ひょんなことから立場が上がってしまった。
ほんとうにただの偶然のようなきっかけで。
ようするに上のひとたちがばたばた倒れたので、単なる繰り上がりだ。
ほかはみんなアルバイトの二十歳そこそこの子たちなので、年長で経験値の順を考えると残ったのが自分しか居なかったのだ。
断る余地もなかった。何故なら知らないうちにそう決まっていたからだ。
それでも今の仕事が好きなので離れる気も無く、努力だけはしてみようと思ったが、上が倒れた後だけに、「倒れない」というだけで誉めそやされているような状態で、非常にもぞもぞする。「倒れない」「やってみようとする」という心意気だけで大切にされ、今度こそ逃がさないというようにやさしくしてもらっている。
そうしたら、どんどん、自分のやっていることがわからなくなってきた。
自分が今やっていることはちゃんとした仕事なのか?
それとも、出来ていない分を周りが目をつぶってくれているだけなのか?
自分から見ても足りないところがたくさんあるのに、どうしてみんな何も言わないのか?
唯一直接の上司だけががみがみと厳しく指摘してくれるが、それにはそれでついていけていない。求められているものに対して「まだ無理だ」と思われた故の人選だったのに、ひょいとあがってしまったがために上司も「無理だと思った」はずの自分に言わねばならず、苦悶しているらしいと聞いたが、なんにせよ自分は自分の位置における「やるべきこと」を果たせていない。けれど周囲はやさしく、すごいすごいともてはやすので、だんだん猜疑心ばかり強くなってきてしまう。