みんなはそれぞれ好きなことを話していた。
面白い話もあったけれど、なかには聞くに堪えない話もあった。
その話を聞くたびに僕は恐ろしくて悲鳴を上げた。
「話すのをやめて」
すると隣にいて彼の話を熱心に聞いていた人たちが僕に言った。
「いい話じゃないか。おかしいのは君のほうじゃないのかい?」
「そもそも彼は自分のために話しているんだ。どうしてそれを止めることができるんだい?」
「聞きたくないなら耳を塞げばいいのに」
でもあまりにも僕の近くにいるものだから、どんなにきつく耳を塞いでも声が届いてしまう。
僕は泣きながら、少しでも気を紛らわせようと誰にともなく自分のことを話し始めた。
やがて僕の隣にいた人たちが僕の話を聞いてくれるようになった。
僕の話を聞いてくれるばかりか、僕の涙を拭きながら一緒になって話をやめてもらえるようにお願いをする人もなかにはいた。
僕はうれしかった。
ところが、僕の前にいた人が話をやめてくれないかと言ってきた。
話をやめたらまたあの話が聞こえてきてしまう。
再びあの泣き暮らす日々に戻ってしまう。
「やめることだけはできないよ」
するとその人の隣にいた人たちが次々と私を非難した。
「泣いてしまうのは君自身に問題があるんだよ」
「泣かないですむ努力をすべきじゃないかい?」
「涙を拭いてくれる人が欲しいからそんな話をしているんじゃないのかい?」
「君は本当にひどい人だね」
僕は泣きながら、でもどうしていいかわからなかった。
僕の涙を拭きながら反論してくれる人もいて、僕はだんだん身動きが取れなくなっていった。
やがて身動き取れない僕の周りは悲しみであふれていった。
あまりにも近すぎて、一人になることもできず、涙を隠すことすらできなくなった。