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2023-05-22

マリオ映画感想

はじめに

 マリオ映画を観た。

 まず私のプロフィールを明かしておく。

 大学院生社会学文学あいの子みたいな分野で、とくにジェンダーとかセクシュアリティとかそういう事を学んでいる。

 映画学部時代に少しかじった程度で、評価はB+だった。だから的外れなことも言うかもしれない。すみません

 匿名なのでもっと書くと、同性愛者で、SM実践者で、フィクトセクシュアルに片足つっこんでいるので、わりとどの界隈でも少しなじめない気持ちになりがち。

 

 「映画としてはちょっと……」というような意見が主にアカデミック評論の場で散見される。

 これは分からないでもない。ちなみにここでは個人攻撃みたいにするつもりはないので、引用特に必要でない限りはしない。

 「すげえ! マリオってこういう解釈ができるんだ!」みたいな「新しいもの」はなかった。しかし、「マリオ映画といえばこういうのが見たいよね」という「見たいもの」が詰め込まれており、「新しいもの」を入れる余地は90分にはないように思われる。

 メディアミックス映画としては一つの模範解答であり、文句なしの一級品といってもいいかもしれない。面白い映画といい映画は別だが、以下では「いい映画」(いい映画って何すか?)としての切り口を見てみたい。

試行する」快楽

 ゲームアニメとしたら、キャラクター解像度物語の運び方だけでなく、どのようにゲーム快感が写し取られているか重要ポイントに思う。

 マリオゲーム体験を思い返すと、快感は大きく二つに分けられる。

 「スーパーマリオブラザーズ」ならステージクリアタスク消化に似た快感

 「スーパーマリオ64」に連なる「箱庭マリオ」なら新しいマップを開いていく探索の快感

 マリオシリーズだけでなくゲーム快感はむしろこの二者に共通する「試行する」快楽が大きいのではないか

 私はといえば、ゲームが苦手だった。

 クリボーに激突する。穴に落ちる。ドッスンに潰される。空から落ちる。燃やされる。溺れる。

 我ながらヘタクソなプレイであるしかし、プレイを重ねると、一つ一つそれらを回避なり消化できる。そこにゲーム快感がある。

 翻って「映画マリオ」に戻る。キノコ王国に迷い込んだマリオは、ピーチ姫の旅についていくためにゲームばりのアスレチックに挑むわけだが、このプレイングも経験者ならば笑ってしまうほど失敗に満ちている。そしてその分だけマリオは「試行」を試すことになる。

 アスレチックだけでなく、ドンキーコング戦、クッパ戦と繰り返し作中で強調される「諦めの悪さ」が導くゲーム快楽とはこのような「試行」の快楽が適切だろう。

 文学研究者藤田直哉上記のようなことも含めて、「物足りなさ」を指摘している。

 https://twitter.com/naoya_fujita/status/1655397557198278662

 ここは鑑賞者のバックボーンも関わってくるのかもしれない。

 周回前提のゲーム「ドキド文芸部」「UnderTale」「シュタインズ・ゲート」の記憶が私にはすごく強くあるし、マリオシリーズから距離を取っていたので(ここまで多くの作品に触れたわけでもない)、試行錯誤性は面白く観た。

 また、勉強不足と笑われそうだが、3D映像2Dフィールド表現する映像も、私としては十分に真新しいものだった。

父と息子の物語としてのマリオ映画

 「反ポリコレ」とか、「ジェンダーから距離を取っている」いう話も聞く。

 しかし私はそうは思わない。LGBTと「マリオ作品群の関わりは以下のコラムに詳しいため、これ以上は言及しないが、さら男性性との関わりについて分析する。

 https://cinemandrake.com/pokemon-musashi-kojiro-lgbtq

 こちらも藤田直哉の評を引用する。私のマリオ映画への評価は彼とは異なるが、この評と私の見解は一致している。

 https://twitter.com/naoya_fujita/status/1656110486713434113

 クッパ名誉と所有、暴力原理においたキャラクターであり、婚姻幸せを直結させる家父長制を背負った男である

 ピーチ姫に対し無茶な論理婚姻を迫ったり、彼女の知人も含めた囚人婚姻犠牲として殺そうとしたり、人の論理の届かない人外らしさが映画における彼の輝かしい魅力でもあることは間違いないが、それは悪しき男性性の発露でもある。

 この「有害男性性」を退けることを軸にマリオ映画を見てみると、マリオは退けた先に何を得たのか。

 それは物語ラストが示すように、ピーチ姫ではない(ピーチ姫マリオとの恋愛成就がほのめかされてはいる。しかし、ほのめかされていることと明らかであることは違う)。

 

 マリオゲームにおいてプレイヤーの分身であり、あまり感情を発露しない。

 葛藤もあまり読み取れず、さらわれたピーチ姫を取り返すため、躊躇いなく絵画に入ったり火山に行ったり宇宙に行ったりしているように見える。

 しかマリオ映画においては、夢を追う自信のなさげな男として描かれる。

 イタリア系アメリカ人の家庭で育ち、家族仲はおそらく悪くないが、「父親に認められたことがない」ということが恐らく影を落としていて、自分のやりたいことと、父親に認められたいという二つの想いが両立できていない。

 そしてマリオ映画の終わりに藤田のいうところの「有害男性性」の発露であるクッパを倒し、父親から承認を得ることとなる。

 婚姻に大きな意味をおく家父長制の権化を倒した先に、父という家父長に認められるというメビウスの輪的な権力ねじれについて、私はまだうまく説明ができない。こういう嫌な書き方をすることで、妙な引っ掛かりを表明するしかできない。

感想、あるいは魔王へのラブレター

 倒されたクッパは小さく、管理されるものとして扱われる。

 その是非について何か言いたいわけではない。

 現実では家父長制や異性愛規範同性愛差別トランス差別人種差別が吹き荒れている。そのような不均衡な権力は改められるべきだし、悪しき男性性とは決別すべきである

 その是非についても何か言いたいわけではない。

 ここまでが建前。

 私はフィクションにおいてこういう権威的な男性が大好きだ。

 「家父長制の権化」と表現したけれど、理屈の通じない愛情を持て余す魔王クッパが大好きだ。

 本気で惹かれると言っていい。

 だが彼の愛は決してピーチ姫には届かない。正しくないから。

 そして彼は多くの部下に愛されながらも、彼の愛はどこにもたどり着かない。

 異形はある意味孤独である

 槇原敬之の「軒下のモンスターから「いっそ妖怪にでもなって 君を軒下からただ見ていたい」を引いてもいい。

 三島由紀夫の「仮面の告白から「お前は人間ではないのだ。お前は人交わりのならない身だ。お前は人間ならぬ何か奇妙に悲しい生き物だ」を引いてもいい。

 

 ピアノを弾きながら「ピーチピーチピチピチピーチ」とか歌ってる彼のカットでは劇場で笑い声が起きた。

 「悪しき男性性」の回路ではもう誰かと心を交わしあうことはない。ピーチが振り向くことはない。彼の歌うラブソング哀愁に満ちて、あるいは滑稽かもしれない。

 私も笑った。でもぶっちゃけ泣きそうにもなった。

 今ギリギリこの男を笑って愛でながら見られるくらいには私もマジョリティにいられてるんだろうけど、こういうジェンダークィア批評規範可視化させ内破する営みであって、次に生み出される新しい規範にいられなくなったら、次は私が笑われる番なのだ

 本当は、弱者クッパの方なのかもしれない。でも私は彼にあまり感情移入しているから歪んだ読みをしているのだろう。

 でも愛してる、魔王クッパ

 お前の横暴さも、報われなさも、情けなさも、関われなさも好きだぜ。ほんとに。

2023-05-20

anond:20230520091829

三島由紀夫「…自分性癖我慢して女の中に出してこっそりゲイやってりゃよかったやん」

2023-05-19

anond:20230518232558

そのデマの出処ははっきりしていて「いいだもも」だよ。左翼評論家。解剖医じゃねえよ。武智鉄二三島由紀夫・死とその歌舞伎観』45ページ参照。

2023-05-18

anond:20230518152056

こいつの小説『孤獨の人』は学習院の先輩三島由紀夫の推薦で売れたんだが、主役がゲイなんだよなあ。三島自殺後の解剖でケツから精液が出てきたり、新人作家を騙くらかしてアナルセックスしてたのを後に暴露されたり(福島次郎『三島由紀夫 剣と寒紅』)。ジャニーもなんらかのアレはなくても紹介ぐらいはされてたんだろうよ。

2023-05-11

anond:20230511144834

芥川は当時にあっては別格だと思うよ

芸術という体系を西洋化した

アート感情表現しかなかったところに思想芸術論を持ち込んだ

西洋では古代ローマから哲学の具現化としての芸術が行われていたけど、その西洋芸術日本で芽生えたのが芥川以降

芥川がいなくてもいつかはしただろうけど芥川がいたからその後の50年ぐらいの作家存在する

作品自体文学昇華しきれてない思想むき出しの安っぽい自己啓発本から時代背景を考慮しないなら三文作家ではある

それこそ現代ではなろうで作家気取りの芥川思想むき出し小説が埋もれている

でも芥川がいたから当時三島由紀夫作品をかけた

2023-04-22

三島由紀夫の本をはじめて読んでいる

三島由紀夫という男の書く文は、綺麗な話に振れそうになるとホモ描写やクソデカ憎悪などを出してきて、読者をあたふたさせるのですが、だいたいこういうのが計算づくぽくて、どうやら自分はその手のひらの上でコロコロ転がされているようなのです。

そしてホモセクシュアルだのナルチズムだのに振れそうになってくると、今度は哲学的テーマを出してくるのですが、これについては結構読み応えがあるのです。

まり、何が言いたいかと言うと、こんなホモくさい野郎の本に、ちとハマりつつある自分がキショくて仕方がないのです。

2023-04-19

anond:20230419123115

三島由紀夫作品が良かったからか切腹したのが効いたのか分からんが、自衛官に死傷者出しといて今でも持ち上げられてるしな

anond:20230419123115

三島由紀夫作品が良かったからか切腹したのが効いたのか分からんが、自衛官に死傷者出しといて今でも持ち上げられてるしな

社会党委員長を刺殺した山口二矢も、自衛隊クーデターを迫った三島由紀夫も、朝日新聞記者殺害した赤報隊も、「田中均爆弾仕掛けられて当たり前」と言った石原慎太郎も、右翼には憂国の烈士なんだから暴力ハンターイなんて言うのは右の政治的偏向に過ぎないよね。むしろ右翼無差別テロではなくターゲットを絞って暗殺することを誇りに思ってたりするし。

2023-04-03

anond:20230402144655

今時小説家になろうとするやつなんて一人残らず引きこもり志望で

一人で家でできて一発当てられる仕事として小説家やってるんだから当たったら書かなくなるに決まってるよな

三島由紀夫死ぬ前までは、一応小説家も世の中に影響を与える、大衆を導く思想家として期待されていたけど

現代では小説家なんてただのエンタメ映画原作屋にすぎない

大衆エンターテイメント提供するので引きこもらせてください。これが現代小説家本音

2023-04-02

ナイジェリア人を見下す自慢する理性と知性のないFP

結局日本人差別しているだけのファイナンシャルプランナー

FPもとこch

@nao03601

もうナイジェリアの方が女性子どもに対する人権意識が高い。日本相対的ダメな国になっていく。ね、森さん、あなたですよ。老害切腹

引用ツイート

Kumiko Inoue

@Kuminxs37

3月23日

ナイジェリアの新しい法律レイプの罪に問われた人は睾丸を摘出されさら子供レイプした人は死刑

画像

午後4:53 · 2023年3月26日

https://twitter.com/nao03601/status/1639898391592443905?s=20

森喜朗が何をしたっていうわけ?殺害予告ですね。

狼長(牡22*マル外)@騎兵復活論者

@wolfleader_0220

3月26日

返信先: @nao03601さん

FFから失礼いたしますが、ナイジェリア人権意識比較的マシなのは西洋文化圏の南部でも上位層と海外生活してる運のいい人も含まれるぐらいだと思います

(当方、父が同国南部出身です)

https://twitter.com/nao03601/status/1639898391592443905?s=20

まりハーフナイジェリア人ですね。さて、ナイジェリア法律を持ち上げたファイナンシャルプランナー発言が次。

FPもとこch

@nao03601

3月26日

返信先: @wolfleader_0220さん

なんかもうきっとなんJ民なんすよ。コンクリート事件とか好きな人間のクズですよ。人権なんてホントはどうでもいいと思ってるクズですよどうせ。

https://twitter.com/nao03601/status/1639933262385782784?s=20

ナイジェリアなんJ区別すらついていない。

狼長(牡22*マル外)@騎兵復活論者

@wolfleader_0220

3月26日

返信先: @nao03601さん

なんJ民という例えがどこにフォーカスしたものなのかは私には分かりませんが、ナイジェリア全土を見ると遥かに日本のほうが人権意識は高いと言えますよ。

 女子校スクールバス運転手女学生狩りから生徒を守る為に小銃武装するというような世紀末事象現代日本では考えられないですからね。

https://twitter.com/wolfleader_0220/status/1639934906569719808?s=20

まりこの馬鹿フェミキチぶったFPは形をかえた白人至上主義者であり、差別主義者であり、ネオナチです。

FPもとこch

@nao03601

3月26日

返信先: @wolfleader_0220さん

tiktok.com

TikTokでMotokonyanさんをチェック!

#成田悠輔をテレビに出すな ナチスと同じとか言ってる奴らに教えてあげるよ

https://twitter.com/nao03601/status/1639936059810390017?s=20

見事に噛み合っていませんが、このようなクズ法律を論じるなんてありえないんですね。ネオナチ白人至上主義者のレイシストFPさん。

FPもとこch

@nao03601

3月26日

返信先: @nao03601さん,

@wolfleader_0220さん

日本人は全員三島由紀夫の後を追って切腹すべき‼️日本民族は滅びましたとっくに!

https://twitter.com/otakulawyer/status/1641353777856004097

山口貴士 aka無駄に感じが悪いヤマベン

@otakulawyer

極端に厳しい法律が出来る背景には、非常に悲惨かつエグイ被害実態うんざりする程大量にあることが一般的だし、実際に適用されるかどうかは別問題からナイジェリアの方が日本より先進的とか女性人権配慮しているとか極論に走らない方が良い。

引用ツイート

FPもとこch

@nao03601

3月26日

もうナイジェリアの方が女性子どもに対する人権意識が高い。日本相対的ダメな国になっていく。ね、森さん、あなたですよ。老害切腹twitter.com/Kuminxs37/stat…

午後5:16 · 2023年3月30日

このあとカタログミリオタからたしなめられるレベル

このひとの人権意識、全くありません。これがフェミニストです。

こういう人にファイナンシャルプランナーができるのかな。。。

2023-03-04

寄ってたかって与謝野晶子を弄って遊んでいる者の中で果たして何人が彼女文体三島由紀夫並みに堅苦しいもの思想においても非常に意思が強くてお堅い人だったということを知っているのだろうか

2023-02-18

anond:20230218185301

きみが自分の美しさによって自尊心を保っているというだけでは。悪いとは言ってない。俺は三島由紀夫ファンだし

2023-02-17

anond:20230217211051

文章の特徴の研究なんて絵画以上に進んでる

三島由紀夫風にするくらいならChatGPTどうこうが出る前でもどうにでもなるタスクだったけど、詰めが甘いって感じだったからChatGPTの登場でもうほぼ区別つかんくらいのはできるかもね

ただ文体が似てるからと言って中身があるかというとまたそれは別の話・・

美しい文章

美しい文章とはなにか?と結論はあるのだろうか。

例えばAI学習させてゴッホの画風で何かを描かせるのはできる。

でも三島由紀夫文章学習させて何か小説を書かせて「これは三島由紀夫文章だ」と納得させることができるんだろうか。

2023-02-16

筋肉は全てを解決する

筋肉は裏切らない

それ三島由紀夫の前で同じ事言えんの?

筋トレとき解決する悩みじゃなかったら、鬱病マッチョが生まれしま

2023-02-12

anond:20230212154149

文学イコール純文学ではないって

そういうの具体的になんかある?

文学的な増田」とか「文学ぽい増田ならいくら自称してもいと思うけど「増田文学」と言われると思い浮かぶのは三島由紀夫とか島崎藤村みたいな読み進めるのが難しい重厚作品であって

サクサク読める増田文学とやらはエッセイというカテゴライズが正しいのではないかなと思う

2023-02-10

anond:20230210120011

三島由紀夫檄文

 檄

   楯の会隊長 三島由紀夫

 われわれ楯の会は、自衛隊によつて育てられ、いはば自衛隊はわれわれの父でもあり、兄でもある。その恩義に報いるに、このやうな忘恩的行為に出たのは何故であるか。かへりみれば、私は四年、学生は三年、隊内で準自衛官としての待遇を受け、一片の打算もない教育を受け、又われわれも心から自衛隊を愛し、もはや隊の柵外の日本にはない「真の日本」をここに夢み、ここでこそ終戦後つひに知らなかつた男の涙を知つた。ここで流したわれわれの汗は純一であり、憂国精神を相共にする同志として共に富士原野を馳駆した。このことには一点の疑ひもない。われわれにとつて自衛隊故郷であり、生ぬるい現代日本で凛烈の気を呼吸できる唯一の場所であつた。教官助教諸氏から受けた愛情は測り知れない。しかもなほ、敢てこの挙に出たのは何故であるか。たとへ強弁と云はれようとも、自衛隊を愛するが故であると私は断言する。

 われわれは戦後日本が、経済的繁栄うつつを抜かし、国の大本を忘れ、国民精神を失ひ、本を正さずして末に走り、その場しのぎと偽善に陥り、自ら魂の空白状態へ落ち込んでゆくのを見た。政治矛盾の糊塗、自己の保身、権力欲、偽善にのみ捧げられ、国家百年の大計は外国に委ね、敗戦の汚辱は払拭されずにただごまかされ、日本人自ら日本歴史伝統を涜してゆくのを、歯噛みをしながら見てゐなければならなかつた。われわれは今や自衛隊にのみ、真の日本、真の日本人、真の武士の魂が残されてゐるのを夢みた。しか法理論的には、自衛隊違憲であることは明白であり、国の根本問題である防衛が、御都合主義の法的解釈によつてごまかされ、軍の名を用ひない軍として、日本人の魂の腐敗、道義頽廃根本原因をなして来てゐるのを見た。もつとも名誉を重んずべき軍が、もつとも悪質の欺瞞の下に放置されて来たのである自衛隊敗戦後の国家不名誉十字架を負ひつづけて来た。自衛隊国軍たりえず、建軍の本義を与へられず、警察物理的に巨大なものとしての地位しか与へられず、その忠誠の対象も明確にされなかつた。われわれは戦後のあまりに永い日本の眠りに憤つた。自衛隊が目ざめる時こそ、日本が目ざめる時だと信じた。自衛隊が自ら目ざめることなしに、この眠れる日本が目ざめることはないのを信じた。憲法改正によつて、自衛隊が建軍の本義に立ち、真の国軍となる日のために、国民として微力の限りを尽くすこと以上に大いなる責務はない、と信じた。

 四年前、私はひとり志を抱いて自衛隊に入り、その翌年には楯の会を結成した。楯の会根本理念は、ひとへに自衛隊が目ざめる時、自衛隊国軍名誉ある国軍とするために、命を捨てようといふ決心にあつた。憲法改正がもはや議会制度下ではむづかしければ、治安出動こそその唯一の好機であり、われわれは治安出動前衛となつて命を捨て、国軍の礎石たらんとした。国体を守るのは軍隊であり、政体を守るのは警察である政体警察力を以て守りきれない段階に来て、はじめて軍隊の出動によつて国体が明らかになり、軍は建軍の本義を回復するであらう。日本軍隊の建軍の本義とは、「天皇を中心とする日本歴史文化伝統を守る」ことにしか存在しないのである。国のねぢ曲つた大本を正すといふ使命のため、われわれは少数乍ら訓練を受け、挺身しようとしてゐたのである

 しかるに昨昭和四十四年十月二十一日に何が起つたか総理訪米前の大詰ともいふべきこのデモは、圧倒的な警察力の下に不発に終つた。その状況を新宿で見て、私は、「これで憲法は変わらない」と痛恨した。その日に何が起つたか政府極左勢力限界を見極め、戒厳令にも等しい警察規制に対する一般民衆の反応を見極め、敢て「憲法改正」といふ火中の栗を拾はずとも、事態を収拾しうる自信を得たのである治安出動不用になつた。政府政体維持のためには、何ら憲法抵触しない警察力だけで乗り切る自信を得、国の根本問題に対して頬つかぶりをつづける自信を得た。これで、左派勢力には憲法護持の飴玉をしやぶらせつづけ、名を捨てて実をとる方策を固め、自ら、護憲標榜することの利点を得たのである。名を捨てて、実をとる! 政治家にとつてはそれでよからう。しか自衛隊にとつては、致命傷であることに、政治家は気づかない筈はない。そこでふたたび、前にもまさる偽善隠蔽、うれしがらせとごまかしがはじまった。

 銘記せよ! 実はこの昭和四十四年十月二十一日といふ日は、自衛隊にとつては悲劇の日だつた。創立以来二十年に亙つて、憲法改正を待ちこがれてきた自衛隊にとつて、決定的にその希望が裏切られ、憲法改正政治プログラムから除外され、相共に議会主義政党を主張する自民党共産党が、非議会主義方法可能性を晴れ晴れと払拭した日だつた。論理的に正に、この日を堺にして、それまで憲法私生児であつた自衛隊は、「護憲軍隊」として認知されたのである。これ以上のパラドックスがあらうか。

 われわれはこの日以後の自衛隊に一刻一刻注視した。われわれが夢みてゐたやうに、もし自衛隊武士の魂が残つてゐるならば、どうしてこの事態を黙視しえよう。自らを否定するものを守るとは、何たる論理的矛盾であらう。男であれば、男の矜りがどうしてこれを容認しえよう。我慢我慢を重ねても、守るべき最後の一線をこえれば、決然起ち上るのが男であり武士である。われわれはひたすら耳をすました。しか自衛隊のどこからも、「自らを否定する憲法を守れ」といふ屈辱的な命令に対する、男子の声はきこえては来なかつた。かくなる上は、自らの力を自覚して、国の論理の歪みを正すほかに道はないことがわかつてゐるのに、自衛隊は声を奪はれたカナリヤのやうに黙つたままだつた。

 われわれは悲しみ、怒り、つひには憤激した。諸官は任務を与へられなければ何もできぬといふ。しかし諸官に与へられる任務は、悲しいかな、最終的には日本からは来ないのだ。シヴィリアン・コントロール民主的軍隊の本姿である、といふ。しか英米シヴィリアン・コントロールは、軍政に関する財政上のコントロールである日本のやうに人事権まで奪はれて去勢され、変節常なき政治家に操られ、党利党略に利用されることではない。

 この上、政治家のうれしがらせに乗り、より深い自己欺瞞自己冒涜の道を歩まうとする自衛隊は魂が腐つたのか。武士の魂はどこへ行つたのだ。魂の死んだ巨大な武器庫になつて、どこへ行かうとするのか。繊維交渉に当つては自民党売国奴呼ばはりした繊維業者もあつたのに、国家百年の大計にかかはる核停條約は、あたかもかつての五・五・三の不平等條約の再現であることが明らかであるにもかかはらず、抗議して腹を切るジェネラル一人、自衛隊からは出なかつた。

 沖縄返還とは何か? 本土防衛責任とは何か? アメリカは真の日本自主的軍隊日本国土を守ることを喜ばないのは自明である。あと二年の内に自主性を回復せねば、左派のいふ如く、自衛隊永遠にアメリカ傭兵として終るであらう。

 われわれは四年待つた。最後一年は熱烈に待つた。もう待てぬ。自ら冒涜する者を待つわけには行かぬ。しかしあと三十分、最後の三十分待たう。共に起つて義のために共に死ぬのだ。日本日本の真姿に戻して、そこで死ぬのだ。生命尊重のみで、魂は死んでもよいのか。生命以上の価値なくして何の軍隊だ。今こそわれわれは生命尊重以上の価値所在諸君の目に見せてやる。それは自由でも民主々義でもない。日本だ。われわれの愛する歴史伝統の国、日本だ。これを骨抜きにしてしまつた憲法に体をぶつけて死ぬ奴はゐないのか。もしゐれば、今からでも共に起ち、共に死なう。われわれは至純の魂を持つ諸君が、一個の男子、真の武士として蘇へることを熱望するあまり、この挙に出たのである

  (三島森田事務所刊『「楯の会」のこと』より)

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