はてなキーワード: ミドレックスとは
MIDREXとか知らなくて書いてないの?
事情通気取ってるけど、こういう基本抑えてないあたりが半可通ぽいぞ。
お前、多分このレスを最後まで読んだら、二度とMIDREXの話を持ち出せなくなると思うぞ。だから覚悟して読めよ。
まずね、わかってて書いてるのかもしれないけど、今のMIDREX(MIDREX NG)はNG=natural gasと冠されている通り、LNGを使う還元製鉄プロセスなのね。「今の高炉法より2〜3割程度はCO2を減らせます」ってだけで、MIDREX NGではゼロカーボンスチールは作れないし、化石燃料消費もあるんだよ。
MIDREXの将来的な展望として、「グリーン水素の供給が潤沢になれば、そのうち①部分的な水素還元製鉄(MIDREX NGプロセスの水素部分置換)ができるかもしれないし、もしかしたら②完全な水素還元製鉄(MIDREX H2プロセス)も実現できるかもしれないんですよ!」というファンタジーが提唱されてるだけで、しかもこれって、俺が前に書いた水素還元製鉄のコスト課題の話から一歩も進んでないんだよ。以下の「水素製鉄の課題」についての指摘を読んでみればわかるでしょ。
https://www.kobelco.co.jp/technology-review/pdf/70_1/081-087.pdf
水素製鉄を実現させるための最大の課題は,グリーン水素のコスト低減と供給の安定化である。世界的に現在,ほとんどの水素は水蒸気リフォーマを用いて化石燃料から製造されている。いっぽう,グリーン水素は水を電気分解することによって製造されており,その電気にはCO2フリーの電気が利用されている。水の電気分解技術は新しいものではなく,電気分解槽に多くの開発が行われている。しかしながらどの技術を用いても大量の電力が必要で,電気分解槽の運転コストのほとんどが電気代である。したがって,現在の価格の天然ガスから置き換えるには電気料金が$0.01/kWh程度に低下しなければ経済的に成立しない。さらに,現在確立している技術をもってしても,DRプラントに必要な量の水素を供給することができない。最近欧州で発表されている最大のプロジェクトでは,100 MWのアルカリ電気分解によって水素を製造する計画がある。しかし,ミドレックスプラント 1 基に必要な水素を賄うには,この 6~8 倍の規模が必要である。また,電気料金が$0.01/kWhになったとしても,化石燃料から製造した水素の価格と同等になるためには,電気分解槽の設備費を現在の1/3~1/4 にまで下げる必要がある。電気分解槽の大規模化に向けた開発も進められているが,大規模化で設備コストを下げるとしても,経済的に成立するにはまだ時間を要しそうである。
水素が安定供給されて水素経済が実現するためには,水素製造コストの課題に加えて水素の貯蔵や輸送のような水素インフラの課題にも挑戦していく必要がある。
水素経済実現のもう一つの課題は発電である。たとえば,スクラップとMIDREX H2で製造したDRIを50:50で電気炉に供給することによって現在の我が国の粗鋼量を生産することを考える。この場合,DRプラントに必要な電力だけでも約25 GWのグリーン電力,すなわち300,000 haのソーラーパネル,あるいは40,000ユニットの発電風車(7,500 haの敷地),もしくは20基の原子力発電所が必要となる。このように膨大な量のグリーン電力が必要であり,これは国家レベルでの対応を要する課題と考える。
ここまで読んでどう思う? 今の日本に、衰退する鉄鋼産業の高級鋼製造のためだけに原発20基なり風力発電ユニット4万基を新設する力があると思うか? (これMIDREX親会社の神戸製鋼技報からの引用だから、ここで指摘されてる課題にはお前もケチのつけようがないと思うけど、何かあるならどーぞ)
前にも書いた通り、「水素還元製鉄でグリーンスチールを製造して自動車を作ればいいんだから、アルミのメガキャスティングなんて駆逐できます」なんてシナリオは、今の技術水準では到底不可能なレベルの莫大なグリーン電力の供給が可能にならない限り、経済的に成立しないのよ。お前はアルミのことを「電力食い」って批判してたけど、そのお前が推してる水素還元製鉄によるグリーンスチール製造ってのは、そういうほとんどファンタジーみたいな条件が整わない限り絶対に成立しない、桁違い(それも1桁どころじゃない)の電力食いプロセスなんだよ。そして、もし仮にその条件が整う時代が来るとしたら、その時はアルミがコモンメタルの中で一番安価な金属素材になることもまた明白なわけ。
鋼材には鋼材にしかない特性、鋼材にしかできない仕事があって、そういう用途分野では、たとえグリーン化に伴うコスト増が進んでも、鋼材利用が廃れることはないだろう(特に建材がそうだ)。でも、現時点ですでに他のメタル材(端的にアルミ)と競合が始まっていて、LCAも対等に近づいてきてるような分野では、鋼材は今後コスト面でどんどん不利になっていく。アルミを押しのけてコスト優位性を回復できるグリーン化シナリオが存在しないからだ。
①グリーンな高級鋼材は、膨大なグリーン水素がないと作れない。
②グリーン水素は、安価で潤沢なグリーン電力がないと作れない。