しかし聴き間違えた恵庭は花を売るなんてだめですよ、と忠告する。
礼子は、あなた何いってんの、と冷たくあしらうのだった。
恵庭は途中の休憩でパンを取り出すが、気泡の穴を見て頬を赤らめる。
あまりの想像力たくましさに小熊が思わず、しいちゃん色々大丈夫?
と声をかけるが、恵庭は穴があったら入りたい、となおも穴の話題を継続するのだった。
あまつさえ恵庭は琵琶湖INNにつくなりそんなに大きい建物入りません、と口走る。
もちろんテントを張る、という行為に大いに興奮した恵庭だった。
当人のアクションだけで潮吹きが完結していたが、残りの二人は知る由もない。
鳥取砂丘を見てもサンドから板挟みの3Pを想像してしまい、どうしても正視できない。
ネットカフェで二人が寝静まったあと、個人席で好きなブツを堪能した恵庭。
珈琲屋のパパは娘があらぬ方向に成長しているさまを暖かく見守るのだった。
恵庭が川に墜落したと急報を入れてきたので小熊は川へとのんびりでかけたが、恵庭は骨折も打ち身もなく川で半身浴をしている最中だった。あまりに何もない状態に思わず小熊は平手打ちを食らわせ、あんたは自分で登ればと突き放す。挙句の果てにかごに乗せて雑に帰宅するのだった(全部アニメ通り)。
自宅に帰った小熊は恵庭を救急病院に運ぶこともなく、挙句の果てに風呂の中に浸からせて放置する。しかし恵庭は恵庭で何の問題もなさげに風呂でリラックスするという体たらく。それを見た小熊はもう無理と発言(全部アニメ通り)。
翌日恵庭がごねてめんどくさそうなので桜を一緒に見にゆくことに。大方桜の樹の下でコーヒー自慢を始めるつもりだろうが、あえて飲まないでやろうと小熊は思った(全部アニメ通り)。
小熊はそう思ったが、顔には出さなかった。
そんな事を言ったらコーヒーに毒薬を混ぜられるかもしれない、そう思った。
もし毒入りコーヒーを飲んだら、半身不随になってカブに乗れなくなるかもしれない。
小熊は想像力旺盛だった。自意識過剰気味な方向にメーターの針が振り切っていた。
自分のためだけにトリカブト(推定)を入れるような真似はしない。
そんな想像力も働かなかった。
トリカブトがそこらへんを通り過ぎたり、ひょっこり暖簾をくぐって挨拶しかねないと思った。
小熊はそれではまずいと思った。
襲ってくるトリカブトと恵庭にチェーンを振り回して応戦しようと思った。
雪道のタイヤにチェーンなんてもうどうでも良かった。
チェーンは振り回すものだ。
小熊の中にイノベーション起こった気がした。
素晴らしい万能感だった。
ふと我に返ったとき小熊は思った。
バカみたい。
後日、礼子と小熊は高いテンションで雪道を跳ね回った。
小熊は内心雪道はスキーやスノボのほうが良いと思ったものの、礼子が楽しそうなので許してあげた。
小熊は常に心の中では上から目線だった。
昼休みになると麻婆豆腐に似たあんかけもどきを食べさせたが、鈍い玲子は麻婆豆腐だと思ったまま気づかなかった。
礼子は笑った。小熊も笑った。両者の笑顔の意味はまるで違っていたが、そこに青春の一コマがあるような気がした。
楽しい?
うん、楽しい。
この会話の意味もだいぶ違っていた。麻婆ドッキリに気づかない礼子、という嘲笑を含んでいた。
冬の寒空のように心が冷え切ってゆくのが分かった。
チッ。
と心のなかで舌打ちする。
彼女はひとしきり雪が降り注いだ後、こう思った。
バカみたい。
礼子が泡を吹く姿は見られそうにない。
小熊は衝動的にチェーンを振り回したくなったが、マグマのような衝動のほとばしりをすんでのところで抑えこむことに成功した。
小熊は思った。
そこでトリカブトですよ、と小熊は意味不明に言いかけたが口をつぐんだ。
小熊はひとまずマフラーを竹槍にすることにした。直管の大きなやつだ。
ハンドルはチョッパー気味にし、日章旗のエンブレムを入れることを怠らなかった。
これだけでは物足りなかったので、オプションとしてラッパをつけてゴッドファーザーのテーマが鳴らせるようにした。
こうした改造をしたことを礼子に報告すると、礼子のテンションは上がった。
彼女は車にも手を出し、車高短に改造したかと思うと特服まで買い込んでしまったのだ。
もはやカブとは関係のない世界に突入していたが、二人は満足だった。
マイルドヤンキーめいたことをアニメ版で発言してはならないことで、鬱憤が溜まりまくっていた。
思う存分デコレーションで発散した。
彼女らはコーヒーショップバイトの恵庭を誘ってチーム超火舞(スーパーカブ)を結成。
静岡・浜松から富士周辺の地域を制圧、いつの間にかデコトラのチームも巻き込んで、南海トラフで水没しかねない地域すべてを制圧した。
流石にここまでやればクレームが付くことはないし、鬱陶しい弁護士のご託宣も聞く必要性がない。
小熊は一人コーヒーを飲んだ。
苦い。
ホネ・ケンコー