2024-05-01

借金は鎹

子どもはいないが、元嫁に未練がある。

別れた原因は俺で、ギャンブルに嵌ってしまったせいだ。

家庭では別々の口座を持っていて、各々の給料がそこに振り込まれる。

俺は妻に内緒借金を作り、いよいよ金が底をついた。

どうにも手が回らなくなり、どうしようもなくなって妻に泣きついた。

妻は最初唖然とした表情を見せたが、次第に落ち着きを取り戻すといつもの和らいだ表情を見せてくれた。

彼女はいつも美しく、奇麗で、俺の一目惚れだった。

今でも世界一美人だと思ってる。

妻は自分の口座からお金を出して、俺の借金を肩代わりしてくれた。

借金の肩代わりをするのは今回だけだからね、と妻は言い、俺は深く頷いた。

それでもギャンブルは止められなかったんだ。同じことが二度続くと、彼女は俺に離婚を切り出した。

俺はそれに従うしかなかったんだ。でも借金は必ず返す。そう誓い、不本意ながら離婚した。

そして今はギャンブルとほぼ縁を切っている。するとみるみる金が溜まっていった。

元々給料は悪くない。俺は今30手前だが同世代の平均よりは幾分か高い。多少の贅沢が許されるほどのゆとりもある。

月に一度、借金の返済という名目で俺は彼女と会っている。

先日の日曜、俺たちは共にランチを食べた。一か月ぶりに会う彼女は相変わらず奇麗で、淡い新緑色ワンピースのようなドレスを着てきた。

ナチュラルメイクのような薄い化粧は相変わらずで、彼女は本当に美しい。彼女が現れた時、俺は数秒間じっと見惚れてしまったほどだった。

雰囲気は以前のままで変わりなし。男の影がないことに俺は心底ホッとした。

ランチ雰囲気は和やかだったと思う。近況を話し合って楽しく笑い、食事最後に思い出したように封筒を取り出して彼女に渡す。

ちょっと厚くない?という彼女に「利子だから」とそのまま渡す。でも…と躊躇するので「いいから」と無理にでも渡す。

そんな余裕があるなら残りも全部返せるんじゃない?

妻がそう聞いてこないことに俺は安堵し、なにより嬉しかった。

食事代はもちろん俺が払う。彼女はただ「ありがとう」という。それだけで俺は満足だった。

じゃあまた来月、といって俺たちは笑顔で別れる。

俺たちはこうして来月も、再来月も会うだろう。でもそれは借金があるからで、もし借金がなくなってしまうと彼女は俺に会う理由をなくしてしまう。

それがなによりも恐ろしかった。また借金を作って彼女に借りる?といったことも一瞬考えたが、あまり馬鹿らしいのですぐにその考えを捨てた。

このままでは返済が終わってしまう。でも俺は彼女との関係を決して終わらせたくはない。

もし彼女に別の男が出来たと、そう考えただけでも気が狂いそうになるのだ。

俺は彼女とよりを戻したい。できれば再婚したい。

彼女美人だ。数多の男が言い寄ってくるのは目に見えるように分かる。

じゃあ普通に復縁したいって言えばいいだろ?っていうのは分かってる。

断れたらどうする?そんな、学生恋愛みたいな臆病は恐怖心が俺を貫き、言い出すことが出来ない。

俺にはもう彼女しか残されていないのだろう。きっとそうだ。

ああ、こうしている間にも俺は彼女が今、何をしているのだろうかと考えている。

嫉妬に狂いそうだ…俺はどうすればいいのだろうか。

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