■真っ黒な票を投じようと思う
選挙はおおむね祭礼である。
人々は粛々と列をなして、それぞれの祈りを票に託す。
票は数えられ、皆の合意という幻想に神格が付与される。
祭礼当日の静かな朝。
前日までの喧騒は姿を消す。
投票所はいつも葬儀場に似た匂いをまとっている。
ならば、喪服を仕立てていこう。
黒々とした喪服を。
私のすべてを塗りつぶしてしまうような。
区切られたブースの中で、私は孤独な思いを綴るだろう。
張り出された名簿に、書き写したい名前は一つもない。
それでも、私はこの祭礼に真摯に向き合いたいのだ。
私の思いはやがて、小さな投票用紙の余白のすべてを奪い去るだろう。
真っ黒な票を投じようと思う。
たとえどこにも届かないとしても。
心を埋め尽くす感情をそのままに、包み隠さぬ祈りを込めて。
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