「馬からやヲ射る」についての批判的なメモ

はてな匿名ダイアリー

2021-09-02

■「馬からやヲ射る」についての批判的なメモ

淡色に忍ばせた開催国の現実　パラ公式画、問い直す理念―山口晃さん〔パラリンピック〕

https://www.jiji.com/jc/article?k=2021090100130

https://gtimg.tokyo2020.org/image/upload/production/ncj661vov3cktjtwyrj5.pdf

きれいに描かれたパラ公式画は、実は風刺に満ちたものだった。

美しい一枚絵に練られた趣向は見事でブコメも絶賛の嵐。さすが一流の画家である。群馬県出身の私も鼻が高い。

だが、引っかかる部分も多かったので軽くメモをする。

「馬からやヲ射る」の画について

矢を射る女性について

画の説明文にもあるが、パラリンピックには馬に乗って矢を射る競技など存在しない
ただし、アーチェリーは存在する
アーチェリーの説明はNHKの動画を見るとわかりやすい（https://sports.nhk.or.jp/paralympic/video/archery-men-rule/）
当然ながら、和装で競技はしない
当然ながら、馬に乗る必要もない
したがって、息苦しく顔が真っ赤にもなることもない
クラス分けは表のとおり。写真の女性はW1にあたるものと思われる。

クラス	状態
W1	車いす使用	四肢まひなど
W2	車いす使用	対まひ（胸・腰髄損傷）など
ST	立位orスツール（いす）使用	上肢・下肢障害

足を使って弓を支えるアーチェリーの選手は存在する

足で矢を射る"狩人"　アーチェリー　マット・スタッツマン
https://www3.nhk.or.jp/sports/story/3061/index.html

画ではリカーブの弓を使っているが、実際は半分の力で弓を引けるコンパウンドを使用するのではないか？事実、スタッツマン選手はコンパウンドを使用している。果たしてこの方は、パラリンピアンにインタビューをしたのだろうか？というか、実際にアーチェリーの競技を見た事はあるのだろうか？

オリンピックでは「リカーブ」と呼ばれる弓のみを使うのに対して、パラリンピックではリカーブと、コンパウンド、2種類の弓が使われる。
コンパウンドには小さな力で弓をひけるよう滑車がついているほか、リリーサーと呼ばれる発射用の器具がついている。
https://sports.nhk.or.jp/paralympic/guide/archery/

記事の作者コメントについて

「世間から隠され、街に出られない障害者もいる。パラ競技より、そうした人々の姿を子どもに見せた方がよほど教育効果がある」

オリンピックにも言える事である。世間から隠され、街に出られない健常者もいる。オリンピックよりも、そうした姿を見せるべきなのか？
むしろスポーツに留まらない。絵画だってそうだ。世間から隠され、街に出られない健常者・障害者の姿のほうを展示すべきではないか？
そもそも、よりか弱い障害者を子どもに見せるほうが「教育効果」があるのはどうしてか？
それは、「健常児」が「弱いものへの思いやり」を持つようになり援助が必要であると理解するからか？
疑問１．そこに「障害児」への教育効果は含まれているのか？
パラ選手を見て、似たような障害を持った児童が「私もああいう大人になりたい」といった希望を持つとは考えないのか？　今、NHKでは各チャンネルの一日平均８時間を使ってパラ競技を放送している。つまり、一日の１／３の時間帯で障害者がテレビに映っており、この状態が２週間以上続く。恐らく、これだけ多様な身体障害者が一定の期間テレビに映り続けたのは、日本の放送史上最初で最後の出来事かと思われる。
テレビにはなかなか障害者の姿が出てこない。ロールモデルになるような障害者と言うとさらに稀である。障害児たちは健常児と違って「テレビを使ってロールモデルを発見」することすら難しいのだ。パラリンピックはその貴重な機会であるが、そういった教育効果を否定するのか？
疑問２．果たして「弱いもの」を見ただけで教育効果は生じるのか？
街で暮らしているホームレスを見かけただけで教育効果が生じるのであれば、数々の悲惨な事件は起こらなかったであろう。ただ見せる事に教育効果があるのではない。何を見せるか、どう見せるか、誰に見せるかで教育効果が変わってくるのではないか？むしろ、見せる事ではなく授業で教える事にあるのではないか？
さらに詰めていくと、スポーツというのは強さと同時に弱さを発露させる装置でもある。パラスポーツは、「健常者視点からの」超人性が取り上げられることも多いが、実際に見ていると弱さや脆さを感じるシーンも多い。例えば、ブラインドサッカーではトッププレイヤーであっても、遠くのボールに向かおうとすると、衝突が危険なのか手を伸ばしながらフラフラと走らざるを得ないようであった。超人的なパスやシュートが決まるのを目撃するのと同時に、そのふらつく「弱さ」をも発見できるのだ。ここで障害があろうとなかろうと気づくのだが、障害を持っていようと「強さ」と「弱さ」が混在しており、その「弱さ」が社会参加への障害になっているのだなとわかる。この作者は「弱い人」を定義しようとしているが、実際にパラリンピックを見てみると、「弱い人」ではなく「弱い所」があるのだなという事がよくわかる。
疑問３．なぜパラ競技と世間から隠され、街に出られない障害者を見せることを比較しなければならないのか？
IPCはパラリンピックの価値を四つに定義している「勇気」「強い意志」「インスピレーション」「公平」。そもそも弱くて困っている人を見せたいといった事は目指していない。
では、どうして作者は混同したのか。この人自身がパラリンピックを健常者向けの見世物だと思っているからではないか。