2021-06-11

東京リベンジャーズ 妄想小説 マイキー

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音もなくふれあって、すぐに離れる。万次郎の唇のつめたさに気づいたときには彼はヘルメットかぶっていて、無言で私に圧をかけていた。急いで万次郎に倣い、胴に腕をまわす。彼の息遣いをききながら、私はさっきのキスのことを思い出していた。恋人として当然の行為にいちいち意味を求めてしまうのは傲慢なのだろうか。設置された信号機はずっと赤色を点滅させていて、堂々巡り思考みたい。不安気持ちを落としていくように、ふかく息を吐いた。車の往来は皆無で、私たちは何にも阻まれることはない。今夜はずいぶん静かだ。風も、星も、万次郎も。バイクスピードが落ちる。鼻腔をくすぐるのは潮風だった。万次郎が前を向いたまま私に問いかける。

「海、寄る?」

「寄らない。とまらないで」

「うん」

ふたたび速度があがる。海は空と同化していて、境界がまるでわからない。万次郎の背に顔をうずめて目を閉じる。海を泳いでいるのかもしれない。空を飛んでいるのかもしれない。もしかたらここは宇宙で、無重力に成す術がないまま漂っているのかもしれない。ほんとうにそうなってしまえばいいのに。

「なまえ」

情事彷彿とさせる声だった。それなりにおおきな声を出さなければお互いの耳に声は届かないはずなのに、万次郎の声はやはり静かで不思議な気分になる。なあに?と返す自分の声がひどく耳障りなものに思えた。

「オレ、なまえが好きだよ。だからキスするし、抱くし、こうやってバイクに乗せる」

彼の言葉が私と現実繋ぎ止める。海中でも空中でも宇宙でもなく、湾岸道路を走っているのだ。急カーブ差し掛かるもスピードは落ちない。ライトが照らす先はほんのわずかで、その先はまだまだ果てしない夜が続いている。好きだよ。万次郎が思っているより、私が思っているより、万次郎のことが好きだよ。言葉にすると途端に安っぽくなってしまうから背中へのキスに変える。じわじわと熱が伝染して冷えた万次郎の唇があたたまったら、もう一度キスをしてね。

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