付き合って3年、同棲して1年になるのでそろそろ結婚しようとプロポーズの準備をしているときにコロナが来た。
俺の仕事が全て吹き飛び、彼女が多忙になったことで結婚の話はあまりしなくなった。
それでもお互いに希望を持って生活してこれていた。コロナが収まったら結婚しよう、という意思疎通があったから。
俺の仕事はなくなったけど、二人いっぺんに吹き飛ばなくてよかったね、という話をしていた。
去年は上手く行っていた。
専業主夫の俺と、外で戦う彼女。俺は設営系でいろいろ作るのは得意だったので、マスク作ったりDIYしたりしてた。
設営系の仕事なんて全くないし、このご時世に新たに人を雇おうとする会社もない。
俺があれこれ歩き回ってコロナを持ち帰るのもよくないだろうと、とにかく裏方に徹していた。
あれこれ理由を付けていても、結局俺は無職の男なのだ。「自分が大変なのにこいつは何もやってない」とも思ったろう。
今年に入り、オリンピックの有償ボランティア募集などの話があると「応募すれば?」と言ってくるようになった。
あぁ、これは、俺の存在がストレスになってるんだな、と思った。
ごく小さな仕事は入ってくるようになってはいたのだが、以前とは程遠い。
それに現場でも、知り合いにコロナが出た、などの話をしばしば聞くようになっていた。正直怖かった。
大規模な仕事は怖かった。
良かった、と思った。
これで俺も仕事に出られる、そう安堵したとき、なんとオリンピックの仕事が入ってきた。
オリンピックにはもううんざりしていたので、かなり複雑な気持ちだったのだが、金は非常に魅力的だった。大金だった。
あぁ、こうしてオリンピックはやめられなくなるのだなと思いながら、仕事は請けた。
彼女を苦しめているのはオリンピック周辺のゴタゴタなので、彼女にどう伝えようか迷った。
去年だったら、「国から金を少しでも取り返してくる」みたいな感じで勢いよく言えたのだが、最近の彼女の俺への当たりは非常にキツい。
ワクチンの驕りというわけでもないだろうが、何かが変わってしまったのだろう。
俺への不満、仕事への不安、政府への不信、いろいろあって、表出したのだろう。
彼女に仕事を受けたと伝えると、「まぁ、感染しないように頑張って。ウチ(病院)もう限界だから」とだけ言われた。
仕方のないことか。
ワクチンを一緒に受けられたら、また違ったのかもしれないが。
去年のうちに何でもいいから働きに出るべきだったのか。
部屋も探して、引っ越さねばならなくなるだろう。
もう疲れた。
金が必要だ。
すまんな。