2021-04-27

ちゃん

もう二十年近く前の話になるが、小学四年生か五年生くらいのときクラスに瞳ちゃんという女の子がいた。

いつも綺麗で真っ直ぐな黒髪おさげにしていた。

ちゃんはいつも黙々とノートをとっているような真面目な女の子で、いつも1人だった。

はいっても、寂しい感じの孤独ではなく、強い感じの孤独だった。

口をきっと結んでじっと何かを見つめる姿が印象に残っている。

ちゃんが無口なのは孤独からではなく話せなかったからで、それが場面緘黙症(なのだろう)と知ったのはつい最近だった。

自分と瞳ちゃんはなんの関わりもなかった。

クラスメイトも特に関わりはなく、目に見える場面では先生特に関わりがないようにみえた。

ちゃんは誰かに意思を持って無視されたり、仲間外れにされてる様子はなかったし、彼女に関する悪口を聞いた記憶もない。

クラスメイトが優しかったというより、彼女はあまり認識されてなかったように思える。

多分みんな、国語時間に出席番号順に音読をする場面でそっと瞳ちゃんを飛ばす時くらいしか彼女認識するタイミングはなかった。

そのまま関わりもなく同じクラスである期間を終えるのだろうと思っていたが、進級間近の「お楽しみ会」で自分彼女と同じグループになった。

お楽しみ会3月最後の授業を発表の場とするクラス内の行事で、大体2月の終わり頃から週に一度準備するための時間が設けられていた。

内容は自由で、くじ引きで決められた班ごとにマジック披露したり、クイズ大会主催したり、モーニング娘。ダンスを踊ったり。ちょっとした文化祭のようなもので、自分たちはみんなそのお楽しみ会が大好きだった。

ただ、それは班が打ち解けた場合のみであって、自分たちの班は正直瞳ちゃんという存在を持て余していた。

準備期間の最初の一コマは大抵なんの出し物をするかを班で話し合うのだけれど、瞳ちゃんは話せないので会議は難航した。

自分たちはたまたま女の子だけの班になり、「モーニング娘。ダンスを踊りたい」とほぼ全員が挙げていた。

しかし瞳ちゃん意見はそこに入っておらず、このまま決定していいものかと全員で不安気に瞳ちゃんの表情を伺っていた記憶がある。

当時は彼女がなぜ話さないのか、もしくはなぜ話してくれないのかとしか思っておらず、彼女にとってあの時とてもしんどい時間を過ごさせてしまたかもしれない。

自分たちは彼女に「何がしたい?」「何もしたくない?」「嫌なこと(やりたくないこと)はある?」「この班の誰かと話したくなかったりする?」と質問をした。

浅慮すぎて、はいかいいえで応えられる質問をすればいいと気づけなかった。

ちゃんは黙し続けていた。

そのうち誰かが「何をして欲しいか書いてもらおう」と言い出して、彼女ノートに何を書き込むのか全員で注視する。

ちゃんは真っ白な自由帳に「なぞなぞ」と大きく書いた。

結局自分たちの班は、モーニング娘。ダンス披露した後に、なぞなぞコーナーを設けることにした。

準備期間を通して、自分たちは瞳ちゃんノートを介してコミュニケーションを取ることを覚えた。

彼女ノートがあれば普通に会話ができたし、自分たちとなんら変わりない小学四年生だか五年生の女の子だった。

お楽しみ会なぞなぞコーナーは、瞳ちゃんが画用紙に大きく問題を書き出題する形になり、後ろの席で見づらいと声が上がれば自分たちがそれを読み上げてフォローをして、それなりに盛り上がったと思う。

それがその年度の最後の授業で、翌年自分は瞳ちゃんと別のクラスになったのでもうなんの関わりもなくなってしまった。

ちゃんには配慮のない質問発言で辛い思いをさせてしまたかもしれないけれど、あのなぞなぞコーナーを瞳ちゃんが楽しんでくれたなら良かったと思うし、もし今後場緘黙の方と関わることがあれば、もっと上手く接そうと思った。

ちゃんが元気だといいな。

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