在宅勤務がもう2ヶ月続いている。同居人は3ヶ月を越えた。人と密にならない安心感はあるものの、やはり普段とは違う生活を強いられているわけでストレスの一つや二つ出てくるのは当たり前だ。
「僕最近寝れないんですよ」
隣の部屋でオンラインミーティングの声がする。同居人はどこか誇らしげに話す、昨日も眠れなくて。
嘘だね、と隣の部屋で仕事する私は思う。君は眠ってるよ、いびきかいて。多分それは寝れない、ではなくて、眠りが浅い、だよ。
もちろん在宅で仕事量が増え、集中力も続かないと言っていたのは知っている。頭痛がする、といって私が仕事するベッドルームで昼間に30分くらい眠ることもある。
でも君は寝ている。横にいるからよく知っている。寝息を立てている。あれが睡眠でないなら病気じゃん、て思う。
15年ほど前だろうか、不眠から抑鬱状態で鬱の手前まで行った。投薬、通院と普通の生活を繰り返して、良いと悪いの間を何度も行ったり来たりしてどうにか今は自分のペース、とやらを見つけることができたのではないか、と思う。でも怖い。いつだってあのときに私は戻れる。外に出るのが怖い、何もできない役立たずの人間に。だから眠れないのが怖い。眠れなくなるのは役立たずへのスイッチだ。
その話を何度もする。眠れなくなるのは何かのアラートかもしれないから、そう言って心配する。そのたびに君は言う、僕は自分のキャパシティも客観的に見れてるし、ストレスも体に出るから大丈夫だよ。眠れなくてただどうしようって足掻いてるわけじゃなくて、ちゃんと傾向と対策を考えて実行してるから、安心して。
はあそうですか、そうですね、あの時の私は自分の何もかも客観的に見れてなかったしなんなら今も見れてないし、有益な傾向と対策をなにひとつ思いつかなかったバカなんですね。もちろんそんなつもりで言ってるわけじゃないのはわかっている、わかっているけど自分の安全を保障する言葉が相手にどんな風に刺さるかはわからないらしい。言い方すら。多分泣きながら病院に行って薬をもらってそれでも眠れなくて、駅のホームで勝手に足が電車に向かって動いていって柱にしがみついて泣いた私は何も出来なくて自分のキャパシティもわからなくて無力でバカな人間なんだろう。あんとき頼むから声を聞かせててほしい、どうなるかわからないって泣きながらかけた電話切られたなー。眠いからって言われたなー。こうやってたまに嫌だったこと全部思い出してどっかいきたくなる。相手は忘れてたら、ソフトな思い出になってることも、その時の空気とか言われたこととか全部覚えてる。どうにかして全部忘れたい。