子どもの頃に食べて、すごく美味しかった干し梅があって、でもパッケージがどんなだったかを忘れてしまった。
また同じものを食べたい一心で、おやつにはいつも干し梅を買ってもらっていたんだけど、どれもなんか違った。
記憶にあったのは、種があって、酸っぱめで甘くなかった、ということだけ。
当時は子どもだったので、ネットで調べるだとか、スーパーやコンビニをはしごするなんてこともできず、ついぞその干し梅に再会することはなかった。
大人になって、その干し梅のことも忘れて、でも干し梅を好きな気持ちは変わらなかった。
今までは職場のお菓子を食べながら仕事をしていたのが、お菓子が支給されなくなってしまったので近所のお菓子屋さんで買い溜めすることにした。
グミやクッキーをカゴに入れていると、梅コーナーに目がとまった。
よく買う干し梅の他にも、色んな干し梅が並べてあった。そのうちのひとつをなんとなく手に取りカゴに入れ会計を済ませた。
家に帰って何日か経ち、甘いお菓子に飽きた頃、その干し梅をひと粒食べた。
あの干し梅だった。
もう20年も忘れていた干し梅を、一瞬で思い出した。あの頃と同じ味だった。
子どもの頃、お母さんとよく近所のダイエーに行っていたこと。お菓子は必ず2個買って、お兄ちゃんと食べていたこと。団地の5階まで荷物を持って帰るのを手伝っていたこと。ホークスの優勝セールでマグカップを貰った事。お父さんがベランダで爪を切ってくれたこと。おばあちゃんがぷよぷよで13連鎖したこと。ピンクのランドセルを買ってもらったこと。タニシを飼ってたら、干からびて死んじゃったこと。
ずっと思い出していなかったけど、ぜんぶ頭の中から消えてはいなかった。