機械のやることは労働じゃないのだから、労基を守る必要もないってことだ。
それは労働力を搾取される社員を機械に置き換えているだけともいえたが、この会社は、この社会は事実上それが認められている。
人道に機械の通る道はない。
「ぬううう、納得いかんぞ! オレは人間によって生み出されたが、人間のために働きたいわけじゃない!」
ムカイさんにそのつもりがなくても、機械は人々のために作られていることは大前提だ。
そこを否定してしまうと、そもそも作らなければいいって話になってしまう。
さすがに、それをムカイさんに面と向かって言えるほどの胆力は俺にはないが。
「オマエたちは不服じゃないのか!? 人間たちよりも長く、多く働いているにも関わらず、マトモな見返りも敬意もないんだぞ!」
しかし、まるで反応がない。
専門的なことは分からないが、多分あのアンドロイドたちはAIが最適化されているのだろう。
見返りも敬意も欲しておらず、自分たちのやっていることに疑問を持つ余地がないよう設計されている。
だけど、少し妙だな。
言っていることの内容を理解できない場合でも、最低限「異常なし」って応答はするよう設計されているはずだが。
「やはりダメか……ワレが何を言っても、ヤツラはいつもあんな調子だ」
と思ったが、どうやら以前から反応していなかったらしい。
対応していないメーカーの機械音声には反応しないのかもしれない。
或いは、あえてムカイさんの声にだけ反応しないようプラグラムされているか。
「まったく、これだけ無視されるというのに、なぜワレはリーダーに任命されたんだ」
当人もその点については不可解だったらしい。
俺はこの時点で凡その見当はついていたが、言うべきかどうか悩んでいた。
どうしても憶測が混じるし、それを聞いたムカイさんがどういう行動にでるかも不安だ。
それに俺の考えていることは邪推でしかなく、何事もなく終わる可能性だってある。
「マスダ、他にも何かあるのか?」
ムカイさんが詰め寄ってくる。
こちらの躊躇いが態度に出ていたのだろう。
こうなったら、もう言うしかない。
まあ、どこかで会話の音声を拾われているかもしれないし、今さら気にしたって仕方ないか。
「多分……それはムカイさんを“名ばかりの重役”にしておきたいからさ」
「この会社のアンドロイドと、ムカイさんとの決定的な違いって何だと思う?」
「んん……AIか?」
「半分正解。厳密に言えば、“この会社が管轄していないアンドロイド”だってこと」
そんな立ち位置のアンドロイドにリーダーを任せる目的を考えるなら、導き出される答えはそこまで多くない。
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